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米国ドミノピザ事例。動画大炎上を乗り越え,ソーシャルメディアやiPhoneをフル活用

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2009年4月,宅配ピザ大手のドミノピザは,オーストラリア社員の度を過ぎたイタズラで大変な災難を被るはめになった。彼らはチーズやサラミなどのピザの材料を鼻に入れるなどして不衛生に扱い,それをYoutubeに投稿したのだ。(動画は複数アップロードされ,そのどれもが嫌悪感を感じるものだ。現在のその多くが削除されており,下記は数少ない閲覧可能な動画だ)


Domino's Pizza Gross Employees Film Food Tainting of Public
アップロード者 TricesWorld.

これらの動画はソーシャルメディアなどを通して一気に広まる。毎度のパターンだが,続いてニュース・メディアに飛び火し,結果として"Dominos"グーグル検索結果の1ページ目に登場する。ここにいたって閲覧回数は100万回を超え,多くの人々がこのイタズラを直接自らの目で体験した。

当然だが,この不快な動画は利用者の嫌悪感を大いにあおり,YouTubeには「二度とドミノピザで頼まない」「これからは自分で料理を作る」といったコメントが多数寄せられた。またHCD Research社が事件後に行った調査によると,動画を見る前にドミノピザを注文していたユーザの65%が,動画を見た後に注文をためらうようになったと回答している。突如,ドミノピザに極めて深刻なブランド崩壊の危機が訪れた。
 
 
■ ドミノピザ,ソーシャルメディアによる対話を開始

ただし,ドミノピザの初動の遅さも伝播の大きな原因となっている。彼らは積極的な関与が逆に動画の広がりにを助長してしまう恐れがあると判断し,すぐに反応しなかったのだ。

彼らが動いたのは動画公開から48時間後だった。CEO自らが動画でメッセージを伝えるとともに,ツイッター(メインアカウント @dominos は,この事件直後,4月15日に開局されている)で利用者と対話をはじめたのだ。

動画内でCEOのJ. Patrick Doyle氏は当件について謝罪するととに,(1)事件を起こした社員は解雇し,法的措置を検討していること,(2)対象となった店舗は一時閉鎖し,衛生チェックや消毒を行ったことを説明。また,(3)今後このような人物が採用されることがないよう,採用基準についても見直すと延べている。



ツイッターアカウントでは,ドミノピザに関してツイートしている顧客への対応に励んだ。ドミノピザにとって,ソーシャルメディアの恐ろしさを改めて感じた事件となった。
 
 
■ 事件の教訓をいかしたピザ・ニューアル・キャンペーン

事件から8ヶ月経った2009年12月,ドミノピザはホリデーシーズン直前に新キャンペーンを打ち出した。それは創立から50年守り続けてきたピザのレシピを,ソースや生地から作り変えるという大胆なもの。

ドミノピザは,再度CEOが登場する4分のドキュメンタリー動画を作成し,いかに彼らが顧客からの最も批判的な評価に耳を傾け,まったく新しく生まれ変わったピザを作り出したかを語った。



「今までで食べたどんなピザよりまずい」,「ドミノピザのクラストはダンボールみたいな味がする」,「ソースがケチャップみたい」といった顧客からの批判的なフィードバックを読み上げ,それに対して真摯に対応している様を映像にした。また新レシピ誕生にあたって,フランチャイズ店からサプラ イヤーにいたるまでいかに多くの人が参加し,「顧客に正直なキャンペーン」を心がけたかを伝える内容となっている。

キャンペーンサイト OH! Yes, We Did では,ハッシュタグ#newpizzaでユーザが新ピザに関してツイートした内容が流れ,Facebook (ファン数48万人超)のフィードも取り込まれた。ちなみにFacebookには,ファンから数多くの写真や動画が投稿されている。全てのコメントが前向きな内容とはいえないが,リニューアル後のピザを喜ぶ顧客の声が目立つようだ。
 
また1,800人の消費者を対象としたピザの味を競うコンテストではペパロニピザ・ソーセージピザなどで優勝。5人中3人が新しいドミノピザを選んだとのインフォグラフィックも閲覧できる。人気番組のmyfoxdc.comなどでもキャスターたちがドミノピザ,ビザハット,Papa John'sなどのピザを実際に食べ比べる様子が放送されたようだ。

キャンペーンリリース時に,テレビCMやYoutubeバナー広告で告知したこともあり,この驚くべき「正直な動画」は大いに注目を集めた。結果的に全米400以上の地元TV番組など多くのメディアに取り上げられる。そしてYouTube動画の再生回数は70万回近くになり,多くの顧客にリーチすることとなった。このキャンペーンをきっかけに,Facebookのファン数を8万人以上も増やすことに成功した。

ちなみにこのクロスメディア・キャンペーンに費やした期間は18ヶ月,かかった広告費用は750万ドルと言われている。

  
■ まだビザを試していない人に向けた,Holdoutsキャンペーン

2010年4月,ドミノピザは最高にユニークな"Holdouts"(抵抗者)キャンペーンを開始した。数少ない「まだ新ピザを試していない人」に向けた画期的なプロモーションだ。

顧客の声に耳を傾ける方針は引き継がれた。新しいドキュメンタリースタイルのTVキャンペーンは,まだ新ドミノピザを食べていない3人の実在する人物を取り上げ,直接ドミノピザが大規模なアプローチをかける。それぞれが驚く様が実に印象的で,バイラルする要素を大いにはらんでいる。

 

さらに,この動画から15秒が抽出されたテレビCMとして放映された後,我々一般人も抵抗者の友人を探そうというソーシャルメディア・キャンペーンが最近開始された。抵抗している友人を告知(名前とメールを登録)するとその友人にクーポン券が届く。初回は紹介者にもクーポン券が発行される他,10人の友人がそのクーポンを利用するとさらにプラスのボーナスクーポンを獲得できるという試みだ。当然Facebookと連係されており,バイラルする仕組みになっている。
Tastebudbounty
 
■ iPhoneアプローチも快進撃を続けている


ドミノピザがiPhoneアプリを初めて導入したのはオーストラリアだ。他のエリアに比べて顧客のデジタルへの抵抗が低く,導入率が高いことがその理由だ。その結果, iPhoneアプリからの注文がわずか12週間で200万ドルの売上げを達成。アプリがリリースされたのは2009年11月だが,ダウンロード数は170,000件を超えており,オンラインオーダーは全体の28%を占めるという。

iPhoneアプリのポイントは,自分が注文したピザの現在状況を知ることができるピザ・トラッカー機能。オンライン注文者の75%がすでに利用しているとのことだ。またエクスプレス注文はアマゾンのワンクリック注文に近いもので,通常のオーダープロセスの50%を削減できる。急ぎやリピートの時に便利な機能だ。

日本でも3月8日にiPhoneアプリ「Domino's App」が公開された。お花見シーズンだったこともあり,公園などからGPSでピザを頼める便利さがブロガーの間で相当な話題となり,多くの記事に取り上げられた。そして,アプリ公開からわずか41日で3,000万円の売上を上げたことで再度注目されている。

本当にこんな場所に…?ドミノピザのiPhoneアプリで、実際に公園で注文してみたら… (らばQ)
ドミノ・ピザ、iPhoneアプリ経由の売上高が41日間で3000万円超 (日経ネットマーケティング)

 

■ ドミノピザに学ぶ,大炎上を乗り越えたソーシャルメディア活用

海外支社員のイタズラ動画が全世界にただちに広がり,ハイバリュー・ブランドを一夜にして揺るがす。ドミノピザに限らず,どんな会社にも起こりうる,そしてどんな経営陣も想像できない深刻な事故だった。

初動で対応を誤ったものの,その後の顧客の声を傾聴する姿勢への転換は見事だった。またトラブルを機に,ソーシャルメディアやスマートフォンといった最新技術を次々とプロモーションに取り入れていく攻めの姿勢にも学ぶ点が多い。

炎上時に従来型の広報対応(遅延や隠蔽)をすると,生活者から見放され,営々と築き上げたブランドが一瞬で崩壊しかねない。その際に最大の武器となるのは,生活者と直接対話できるソーシャルメディアだ。航空業界事例やペプシ事例もそれをよく物語っている。

ツイッター利用が活発な航空業界における炎上事例と未然防止事例 (3/16)   
ソーシャルメディア炎上考察 ~ ペプシ Refresh Project のトラブルとその顛末 (2/27) 

ただしソーシャルメディアはツールに過ぎない。生活者と直接交流する以上,隠蔽体質を一掃し,誠実な顧客対話姿勢を社内で徹底しないといけない。もう一度原点に戻り,生活者視点で企業文化を醸成し直す。それができた企業のみが生き残る時代が,そう遠くない将来に来るかも知れない。
 
 
  
【翻訳協力】
当記事は,噂のTechDoll,三橋ゆか里さん(プロフィール)に翻訳等でご協力いただいています。
 
 
 
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