レディー・ガガに学ぶソーシャルメディア活用最前線
本日発売,音楽業界専門誌 ORICON BiZ最新号 にて,特集記事「レディーガガに学ぶソーシャルメディア活用最前線」を担当させていただいた。レディー・ガガは米国で最も注目されているスーパーアーティストだが,その多面的なソーシャルメディア活用法はプランド・プロモーションに通じるものがあるので,当記事にて集約してご紹介したい。
ORICON BiZ最新号
まずあまり馴染みの深くない方のためにレディー・ガガの最新PVを。
これは最新大ヒット曲,Bad RommanceのPVだが,視聴回数はなんと1億回を超えている。
この例でもわかる通り,彼女のソーシャルメディア浸透度は群を抜いている。
この表は2009年にTwitterで話題に取り上げられた人物ベスト15だ。レディー・ガガはオバマ大統領に続いて第二位,なんと大変なツイートラッシュを巻き起こしたマイケル・ジャクソンを上回る注目のされ方だ。
Twitterだけではない。How Sociableによるブランドスコア(主要32メディアを対象)によるスコアもダントツだ。世界第2位のTwitterフォロワー(420万人以上)を持つBritney Spearsをも圧倒してソーシャルメディア・クイーンとなっている。
さらにネット上での音楽再生回数でも群を抜いている。
(上図はLast.FM,下図はMyspaceにおける音楽再生回数推移)
これらはもちろん彼女自身のアーティストとしての魅力に負うところが大きいが,それを強力にバックアップしているのがソーシャルメディアだ。レディーガガは,オバマ大統領と同様,ソーシャルメディアに積極果敢に取り組んでいる典型的なイノベータなのだ。
では,彼女が実際にどのようにソーシャルメディアを活用しているか,いくつか事例をピックアップして紹介してゆこう。
■ レディー・ガガ オフィシャル・サイト
まず最初に彼女のオフィシャル・サイト ladygaga.com を見てみよう。
この公式サイトが文字通りホームページであり,多様なソーシャルメディアの旗艦として位置するものだ。アクセスすると真っ先に目に入るのは,ハイチ地震へのサポートを呼びかけるGAGAのメッセージと募金のためのTシャツ販売だ。これをクリックするとGAGA公式ショップ(米国,英国,オーストラリア向け)に誘導される。
このショップでは,ハイチ援助Tシャツ以外にも多様なLADY GAGAグッズが販売されている。さまざまなデザインのTシャツや音楽ダウンロード,ポスター,ステッカーなどにはじまり,サングラス,ヘッドフォン,フードパーカー,はてはノートやフォルダーまでがカバーされている。音楽ビジネスは,デジタル時代の到来とともに,アーティストや音楽を広告塔にして,派生するイベントや物販に事業比重を移行しているが,まさにその一端がうかがえるストアと言えよう。
サイト構成はシンプルで,ハウス(最新情報),イベント,インフォ,ショップの4構成で,インフォ内にバイオグラフィ,ミュージック,フォト,ビデオ,フォーラムのサブメニューがある。
特にビデオコーナーは多様なプロモーションビデオが視聴できるため人気コンテンツとなっており大量のコメントが書き込まれている。ちなみにミュージックやビデオの下部にはワンクリックでiTunesやAmazonMP3でダウンロード購入するためのボタンが配置されている。
またミュージック,フォト,ビデオはワンクリックで友人とシェア(様々なソーシャルメディアを通じて情報を共有すること)できるようになっており,バイラルを発生させるための着火装置になっている。ちなみにコメント投稿やフォーラム書込みには会員登録が必要だが,オープンID方式を採用しており,Facebook/Twitter/MyspaceのいずれかのIDがあれば,新しくIDを登録しないでもログインできるようになっている。ちなみに日本でもYahooID,mixiIDなどがオープンID化されているので同じような使い方はすでに可能だ。
この公式サイトは,いわばファンにとっても最新情報の発信基地だ。ここからワンクリックで新着ビデオや楽曲がソーシャルメディアに発信され,各ソーシャルメディア内でGAGAファンの友人にバイラルされていく。ソーシャルメディア活用で重要なポイントは,この着火とバイラルの仕組みを連動して組み立てることだ。
■ Facebookの活用
では,続いてそれぞれのソーシャルメディアに視点を移してみたい。
まずは会員数3.5億人と世界最大のSNSであるFacebookにおけるGAGAページをチェックしよう。
【Facebook ファンページ】
Facebookでは,アーティストがファンページ(作成も閲覧も無料)を作り,ファン交流の場を提供するのが一般的だ。レディー・ガガの場合,Facebook上でなんと500万人のファンを持ち,全世界でもトップ10ユーザーに入っている。ファンページは,ウォール(GAGAがメッセージを書込み,それにファンがコメントする場),ストア,ギフト,掲示版(ディスカッション),ミュージック,動画,イベント,写真など実に多様なコンテンツを用意できるようになっている。LADY GAGAファンページでは,公式ページのダイジェスト版といったイメージで,グッズ・ストアを含むこれらのコンテンツを提供している。
ここではFacebookならではのコンテンツにつき説明しておこう。まずファンのトップページにあるウォールでは,GAGA本人から1日1,2件ほどメッセージが書き込まれ,それに呼応してファンが数千のコメントを残して交流している。それとギフトコーナーでは今赤丸急成長のバーチャルギフト(彼女がデザインされた画像イメージ)が販売されている。デザインによって異なるが,ひとつ100-200円程度で,メッセージをそえてお好みのバーチャルギフトを友人にプレゼントすることができる。
大切なことは,このFacebook上でのユーザー体験は「斉藤さんがLADY GAGAのBad Rommance動画を閲覧しました」のようなメッセージで自動的に友人に伝播する仕組みを持っており,さらにそれに対して友人がコメントするなど体験共有の仕組みもできている点だ。自動ないしワンクリックでクチコミが伝播されていく仕組み,しかもそれは広告費を全く必要としない点,これがソーシャルメディアのバイラル・パワーの源泉となっている。
【Facebook ギフトショップページ】
またFacebookアプリ"Fame Monster"も用意されている。内容はシンプルで,アルバム"The Fame Monster" のジャケットをモチーフとして類似デザインを自動生成する(自分の写真などに "I'm a Fame Monster 2009/11/23" とアルバムと同じタイポグラフィでかぶせるだけのアプリ)ものだ。ただしこれはアルバム発売前から用意されていたのがミソで,自分自身が主役になったジャケットを友人に見せることでティザー広告がクチコミされていく仕掛けになっている。
■ MySpaceの活用
一方世界第2位のMySpaceのLADY GAGAページはあまりつくりこまれておらず,メニューをクリックすると公式サイトに誘導されるようになっており,独自の作りこみはあまりされていない。
【MySpace ページ】
これはMySpaceがこの一年でFacebookに大きく引き離されページビューが減少していることもひとつの要因だろう。ひとつ特徴のあるの
は,MySpace
Musicというサービスによりヒット曲が30秒だけ視聴できるようになっており,それをファンが自分自身のマイページに掲載できるようになっている点だ。
■ Twtiterの活用
Twitterでもレディー・ガガはフォロワー数240万人を超え,全世界でベスト20のビッグユーザーとなっている。特にフォロワー増加の勢いは驚異的で,なんと1日1万人以上のハイペースとなっており,これは現時点で世界最速かも知れない。ツイート自体はFacebookと同様,1日に1-2件程度のペースのようだ。他のアーティストと比較した特徴はフォロー返しをしている点だろう。一日あたりのフォロー数は上限があるためすべてのユーザーをフォローできていないが,すでに15万人のファンがLADY GAGAからフォローされている。多くのアーティストはフォロー返しをしていないが,無料のファンサービスとして注目したい。
■YouTubeの活用
またYouTubeチャンネル(公式LADY GAGAページ)も非常に充実しており,登録者20万人,コメント4万件以上と最大級の規模になっている。そしてさらに驚きはその視聴回数だ。公式ビデオとして登録してある動画は1月末現在25本あるが,その視聴回数を合計すると2億回をゆうに超えている。
【YouTube チャンネル】
■ iTunesの活用
iTunes連動も積極的だ。iTunesアイコンをクリックすると,iTunesサイトが立ち上げるとともにPCのiTunesが起動される。そこでは音楽やビデオ販売にとどまらず,LADY GAGA関連のアプリがいくつも用意されている。特に注目は "Lady Gaga - Walmart Soundcheck Concert (Live)" だ。(限定配布だったため,2010年2月現在はメニューにはありません)
彼女の大ヒット曲が5曲,Live版ミュージックビデオとして入っており,しかも無料ダウンロードできるのだ。その理由は広告で,PRESENTED BY AXE としてAXE Hiarの広告画像や短いCM動画が入っている他,彼女自身のアルバムをワンクリックで購入できるバナーも挿入されている。アプリを活用した,広告収入を伴う新しいバイラル方法として注目したい。
その他,すべてを紹介できないが,音楽系ソーシャルメディアであるimeem, iLike, LastFM,写真系サイトであるBuzznet, 音楽ダウンロードサイトAmazonMP3など,多くのソーシャルメディア上に拠点を持ち,それぞれの特徴を生かした充実した内容になっている。
■ ソーシャルメディア活用の秘訣
これらのソーシャルメディアの多くは無料であり,媒体料が不要な点が重要だ。仮に数億回の動画再生に耐えられるような自社サイトを構築した場合,その費用は最低でも月額数百万円はかかるはずだ。しかもそこには数億人という参加者がおり,ファンたちはアーティストの登場を心待ちにしている。さらにコンテンツは公式サイト用のものを(アレンジは必要だが)使いまわしすれば良く新たに制作費用がかかるわけでもない。このビジネスチャンスを逃す手はない。これが米国アーティストがこぞってソーシャルメディアを活用している最大の要因と言えよう。
活用のポイントは,Facebook,Myspace,Twitter,YouTube,iTunesなどにそれぞれファン交流の場を持ちながら,公式サイトをセンターとして位置づけ,各ソーシャルメディアから集客誘導するとともに,公式サイトをクチコミ情報発信源とし,それぞれのソーシャルメディアに情報を伝播させていく全体設計だ。アーティストに限らず多くの先進ブランドが取っているソーシャルメディア活用の成功パターンがここにある。
レディー・ガガはソーシャルメディアをたくみに活用し,米国でも最も強力なブランドの一つに成長した。日本でも彼女のブランディング手法を学び,新時代にふさわしいスーパーアーティストが登場してくるのを期待したい。生まれた時からインターネットや携帯に接してきたデジタルネイティブと呼ばれる世代が,ごく自然にソーシャルメディアを活用し,これからの音楽シーンをリードしてゆくことだろう。
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