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【続】名著「フリー」より ~ 米国,英国,中国,ブラジルの事例に学ぶ,無料音楽ダウンロードから収益を生みだすマジックの数々

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デジタル技術による違法コピーで悩まされている業界は多い。
例えばソフトウェア,ゲーム,映画など。最近は漫画なども被害にあい始めている。

しかし最も深刻で,業界衰退の危機とまで言われているのが音楽業界だ。それだけにレコード会社や著作権協会とインターネット事業者の溝は深く,有望なITベンチャーが撤退に追いやられるケースは多い。

違法コピーしているユーザーの方が音楽を買っているという 調査結果 もあるが,音楽CD売上の推移を見るとレコード会社の現実の苦悩が見えてくる。

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【音楽用CDの生産金額推移 出所:Garbagenews】

1998年から2007年までの10年間で,音楽CDの生産金額はなんと44.4%と大幅に減少しているのだ。ただし一方で有料音楽配信(着メロ,着うた,ダウンロード販売等)は大幅に伸びている点に注意したい。

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【音楽ソフト・音楽配信の合計売上推移 出所:Garbagenews】

有料音楽配信だけを見ると2006年は前年比56%、2007年は41%と大幅な伸びを示している。つまり,音楽業界そのものの衰退ではなくレコード会社の危機であり,ネット革命により音楽業界の産業構造が急激に変化しつつあるということだ。

昨日書評した「フリー」においても,「CDが売れない時代にいかに収益を上げるか」実に興味深い事例が数多く記されている。本記事では,本著からそのような具体例を抽出して要約するとともに,筆者がまとめたポイントを「教訓」として紹介したい。

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■事例その1 レディオヘッド(ワールドワイド)

人気バンド,レディオヘッドが7枚目のアルバム「イン・レインボウズ」を発売2ヶ月前に購入者自身が好きな価格をつける形(無料もOK)でダウンロード販売した。結果は平均価格6ドルだったが,大量配信により,それだけで前作の総売上を超える収益となった。2ヶ月後に通常CDや豪華版ボックス,iTunes販売を行い,全世界で300万枚を超える過去最大のヒット作となった。ちなみに豪華版ボックスは80ドルだったが10万枚も売れた。アルバム発売後のツアーも過去最大規模となり120万枚のチケットが完売した。

→教訓 音楽をフリー配信することは見込客を最大化するための戦略的な手段となる。

■事例その2 プリンス(英国)

ロンドンのデイリーメイル誌が,プリンスのニューアルバム「プラネット・アース」(小売価格 19ドル)を日曜日版280万部の景品としてつけた。その結果,新聞の売上は20%増加した。この試み自体は赤字(▲70万ドル)だったが,ブランド価値を高めたことで経営陣は成功と考えている。一方のプリンスも,本来得るべき著作権料を大幅に下げて提供した(560万ドル=>100万ドル)が,その直後の公演「パープル・ワン」全21回がすべて売り切りとなる記録的なコンサート収入(2340万ドル)をあげたため,大幅な収支プラスとなった。

→教訓 フリー音楽配布は収益性の高いライブの集客になる。ちなみにローリング・ストーンズの収益は90%以上がライブから。

■事例その3 デレク・ウェブ(米国)

無名に近いカントリーミュージシャン,デレク・ウェブの例。販促費用がほとんどなかったため自慢の新作「モッキンバード」を無料配信した。ただしその際に個人情報(氏名,メール,郵便番号)とこのアルバムに興味を持ちそうな5人の友人のメールを入力してもらい,彼らにはダウンロードをすすめるメールを出した。3ヶ月で8万人以上集まったファン名簿をもとに,住所(郵便番号から)でフィルタリングして近場でのライブ情報を送ったら集客に役立つようになった。今ではライブチケットとグッズ販売が順調で,ついに音楽で食べていけるようになった。

→教訓 無名でも音楽性が高いミュージシャンはフリー配信を使える。ファン名簿を集め,蓄積し,積極的に交流すること。

■事例その4 マイクロムー社(中国)

中国では流通している音楽ソフトの95%が不正コピーという恐ろしい「フリーワールド」だ。そこではレコード会社は芸能プロダクションの役目もになう。コマーシャル出演,スポンサー探しなども仕事のうちだ。最も大きな売上はライブでのスポンサー収入だ。そこに目をつけた面白い商売もある。マイクロムー社は新人インディーズ・アーティストと契約する一方で,月ぎめ料金で会社の抱える全アーティストのスポンサーとなる企業(中国で商品を売ろうとしているマーケティング担当者が狙い目)を見つける。契約するとアーティストのビデオや音楽を作成し,そこにスポンサーのクレジットを入れて無料で大量に配信する。その後にライブや大学ツアーも仕掛けていく。配布回数に応じて出資金をアーティストにも還元する仕組みもとっている。

→教訓 中国では音楽に課金した瞬間に99%のリスナーを失う。360度モデル(ツアー/CM/グッズ等 全方位モデル)が当たり前だ。

■事例その5 バンダ・カリプソ(ブラジル)

ブラジルでは街角でCDを売る露天商と地元DJが音楽ビジネスにおいて重要な役割を担っている。例えば人気バンドであるバンダ・カリプソは,CD音源や写真を彼らに渡すのと交換に,地元ライブのプロモーションを依頼する。DJはラジオ局などと交渉し,露天商は海賊版CDを目立つようにして販売(カリブソにはCD収入は入らない)し,ライブの先乗りチームの役目を果たす。カリブソは国中をマイクロバスかボートで旅しながら年に数百回のライブを行い,チケットだけでなく飲食物やグッズも売る。さらにはそのライブ自体をCDやDVDに記録し,その場で2ドル程度で販売する。ちなみにブラジルでは90%のアーティストがレコード会社と契約していないし,する必要もない。

→教訓 ブラジルではレコード会社すら介在しない。ライブの地元DJや露天商と組み,音楽ビシネスのエコシステムを形成している。

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日本でも360度モデルの時代を予感させるかのごとく,人気ミュージシャンの出演CMが相次いでいる。ソニーの矢沢永吉、グリコの椎名林檎、サントリーとタワーレコードの坂本龍一、斎藤和義など。

ちなみに僕は椎名林檎の大ファンなので,彼女の素晴らしい初CMを最後に紹介しておきたい。なめらかな「ムーンウォーク」は必見だ!

なお,当書評では書籍から重要な内容をサマリーし紹介していますが,それはまさに当書が推奨しているものであり,遠慮なく転載させていただきました。IT 業界,音楽業界,新聞業界,出版業界などデジタルコンテンツに関係する方々には必読の名著だと思います。お奨めいたします。

【参考記事】
ビジネスパーソン必読の名著「フリー」に学ぶ,無料からお金を生み出す具体的な戦略とは? (2009/11/23)
LADY GAGAに学ぶソーシャルメディア活用の最前線 (2009/11/22)


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