【書評】「ツイッターノミクス」,「ビジネス・ツイッター」
昨年から今年にかけて,実に多くのツイッター本が出版されたが,ここにきて良書が続いて登場したのでご紹介したい。
■ツイッターノミクス
一冊目は「ツイッターノミクス」。発売日は3月11日。Amazonで本日AM10:20に確認したところ250位となっている。(この順位はかなり変動するのであくまでご参考まで)この手の書籍ではかなり良い売れ行きのようだ。
原著のタイトルは「The Whuffie Factor ~ Using the power of social networks to build your business」であり,必ずしもツイッターに特化した書籍ではない点に注意したい。著者タラ・ハント氏はアルファ・ブロガーであり,ソーシャルメディア活用のコンサルタントを企業向けに行なっている実践派だ。
この書籍の肝は原著タイトルにもある「ウッフィー」という考え方だ。この「ウッフィー」とは,ソーシャルネットワークで結ばれた人同士に長い時間かけて育まれる信頼,尊敬,評価の総称で,書籍内では「ソーシャル・キャピタル」とも表現されている。また「ウッフィー」の語源は「マジックキングダムで落ちぶれて」(著者:コリィ・ドクトロウ)で,このSF小説内で未来の貨幣に相当する価値(ドクトロウの予言する未来では貨幣が一切存在しない)として登場するものだ。
ドクトロウの考えるウッフィーを増やす方法は,好かれること,つながること,一目おかれること。彼の描く近未来では,車を買うときも,電車に乗るときも,一人一人の脳内端末(ネットに常時接続されている!)に保存されているウッフィーで払うのだ。そして誰もがその人のどのくらいのウッフィーを持っているか見ることができる。
この小説はSNSの登場前,2003年に書かれたものだが,ウッフィーはソーシャルメディアが形成しつつある新しい価値観を見事に予見している。「ツイッターノミクス」ではこの概念をコアにしながら,企業がウッフィーを得るにはどうすれば良いかを丁寧にフレンドリーなタッチで,多くの海外事例を交えながら紹介している。
実に興味深いのは,このウッフィーが価値の基準となるギフト経済と,貨幣を基準とする市場経済の対比の構図だ。少し抜粋して紹介したい。
市場経済はお金でまわるが,ギフト経済はウッフィーでまわる。ギフト経済では,与えれば与えるほどウッフィーが増える。ここが市場経済と大きくちがうところだ。
ウッフィーには流通することによって価値が高まるという性質があるからだ。たとえばAがみんなに喜ばれる事業をはじめるとしよう(=ウッフィーを増やす)。それに共感したBが,仲間にクチコミで広めるなどの形で力を貸す(=ウッフィーを使う)。するとA, Bともにウッフィーが増える。こうしてコミュニティの中でウッフィーが流通すれば必然的に人と人とのつながりが増えることになる。これこそがウェブ2.0で成功する決め手であり,また本書のテーマでもある。
「なるほど,たいへん結構。だがあいにく私は現実の世界に生きているんだからね。」「家賃はどうやって払うんだ。社員への給与はどうする。」 全くその通り,やっぱりお金は必要だ。
いま私たちは二つの並行する経済を生きている。そして俗に言う「資本」つまり「マーケットキャピタル」は「ソーシャルキャピタル」がたくさんあるところで生まれるようになってきているのだ。ウッフィーがたまれば自然とお金のほうからよってくる。
ソーシャルキャピタルをたくさん持っていれば優位に立てる。行き届いたカスタマーサービスが評判になる(好かれる),親密な顧客関係を維持する(つながる),話題になり注目される(一目おかれる)などだ。こうしてクチコミを広め,顧客を呼ぶことができる。これまでは,お金をたくさん持っている組織や人が大きな影響力を持っていた。インターネットがなかった時代には,広告に予算を注ぎ込みさえすれば大勢の人に訴えかけることができたからである。(中略)影響力の源泉はソーシャルキャピタルにシフトしている。(中略)いまやマーケットキャピタルとソーシャルキャピタルは猛烈なスピードで収斂しようとしている。
慧眼だ。著者のタラ・ハント氏は,このウッフィーというコンセプトに基づき,さまざまな企業のソーシャルメディア活用事例,時に失敗事例,そして活用する秘訣を提案している。それも机の上の論理展開ではない,現場に根付いた,とてもわかりやすい内容になっている。
それにしてもウッフィー,すてきな考え方だ。制限のある貨幣を奪い合うゼロサムゲームではなく,限りがなく使えば使うほど増えていく。人とシェアすることでさらにバリューが高まってゆき,誰もがハッピーになれるウィンウィンな価値観だ。そして我々が無意識のうちに感じ始めていた,これから時間をかけて形成されるであろう新しい社会のあり方を示唆したすばらしい書籍と思う。
■ビジネス・ツイッター
さて,二冊目は「ビジネス・ツイッター」。発売日は3月4日。やはりAmazonでAM10:20に確認したところ82位となっており,現時点では「ツイッターノミクス」よりさらに売れている。また早くも五つ星の書評が2つあるようだ。
この書籍は,ソフト・イメージな書籍デザインだが,内容は本格的なビジネス書だ。
原題は「TwitterVille」(ツイッターを使う人々を街に例えた表現)。著者シェル・イスラエル氏は企業ブログの活用法を説いたベストセラー「ブログスフィア」(ブロガーによって構成されたコミュニティ,スフィアは球体)の著者でもある。ブログからさらに進化したツイッターを,膨大な取材に基づき,多面的な活用方法を解き明かしている。ツイッターをすでに個人で活用している,ないしビジネス活用を真剣に検討しているビジネスマンにとっては,現在出ているすべてのツイッター本のうちベスト書であると言っても過言ではないだろう。
何よりありがたいのは,70を超えるツイッター活用事例が満載されていることだ。有名どころのデルなども舞台裏の生々しいインタビューが刺激的だし,著名事例のみならず,B2B活用事例,小規模活用事例など実に幅広い。活用用途としても,販促,ユーザーサポート,情報収集,取引先とのコミュニケーション,企業イメージの向上,人材採用,募金集めなどが多岐にわたって紹介されている。
そして書籍を通じてそのクオリティを際立たせているのは,膨大な時間をかけたであろう取材の緻密さだ。例えば冒頭の「ツイッターはこうして始まった」。一般論が多いパートだが,この一章を読むだけで他書との違いが歴然とわかるはずだ。そこにはツイッター誕生にいたるドラマが実に興味深く描かれており,この手の情報を常時チェックしている筆者にとっても新鮮な響きが多かった。
またこの書籍は,私のようにソーシャルメディアに関与する業界の方にも必読書としてお奨めしたい。実際に「ビジネス・ツイッター」の登場により,私自身のプレゼンテーションにもプラスになるところが多かった。ややもすると類似事例が氾濫しているツイッター本において,情報の役立ち度やフレッシュさは群を抜いている。著者シェル・イスラエル氏の綿密な取材に感謝したい。
この「ビジネス・ツイッター」に登場する具体的で新鮮な事例については,今週,当ブログにて数回にわたって紹介したいと考えている。
なおこれは両著についていえることだが,翻訳のクオリティが高く,和書を読んでいる感覚ですんなりと理解できた。「ツイッターノミクス」をフレンドリーな語り口で翻訳された村井章子氏,「ビジネス・ツイッター」では重厚でありながら読みやすい翻訳をされた滑川海彦氏,前田博明氏にもあわせて感謝の意を表したい。
最後に,ツイッター本の購入を検討されている方々のために,一定の評価を得ている書籍をピックアップし,マッピングしてみた。あくまで私見ですが,ご参考になれば幸いです。
・ Amazonツイッター関連書籍は こちら ("ツイッター"での検索結果)
なお当ブログでは,記事化に際にて,その関係性(金銭,物品,サービスの提供)を明示することをポリシーとしており,書評においても同様です。この2冊は自費で,自発的に購入したものです。
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