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mixi,モバゲー,iPhone 徹底比較 「どのアプリが一番儲かるか?」

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世界中でソーシャルゲームが巨大な金脈として注目されている。

日本においても,オープン化で先行したmixiが2ヶ月間でPC版の総利用時間を倍増させ,続くモバゲーはテストケースである自社製4アプリだけで10月単月で50億PV(ページビュー,以下PVと略)を稼ぎ出した。

本家本元であるFacebookの国内普及が遅れていることも既存事業者やITベンチャーに大いなる追い風となっている。 Zynga,Playfish,Playdomなどの黒船が上陸する前に大ヒットゲームを生み出し,ソーシャルゲームにおけるトップ・プランドを確立してしまうこと。このゴールドラッシュの覇者を目指す企業にとって至上命題だ。

さて,ここで難問がひとつある。限られた経営資源をどのソーシャルアプリ・プラットフォームに投入するかだ。前述のmixi,モバゲーに加え,iPhoneからも目が離せない。さらには来年初頭に日本法人が設立されるFacebookや爆発寸前のAndroidも視野に入れておきたいところだ。

プラットフォームの選択基準としては

  • 収益面  投資コストに対してどのくらい儲かるか?
  • 競合面  限られたユーザーを奪い合う競合アプリがどのくらいあるか?
  • 技術面  特殊な技術を必要としないか?拡張するときに技術ネックになるないか?
  • 拡張性  アプリを他のプラットフォームに横展開するときのコストはどうか?
  • 将来性  そのプラットフォームがどこまで伸びるか?

などを多面的に考慮する必要がある。

中でも最もキモの部分といえば収益性,ずばり「どれくらい儲かるか」だ。様々な憶測や実体験,海外調査資料が飛び交うものの,どれも基準があいまいかつバラバラであり,客観的な目安となるデータがないというのが現状だろう。

当記事では,まず国内最重要プラットフォームである「mixi」 「モバゲー」 「iPhone/iPodTouch」(以下,iPhoneと省略するがiPodTouchのデータも含んでいる)に対象を絞り,それらの収益性を詳細に分析してみた。比較に際しては,基準を統一し共通のものさしを持つこと,想定要素についてその根拠を明示することを心がけている。

■プラットフォーム比較の前提となる基礎データ

まずは比較分析の前提データを表にまとめてみよう。mixiとモバゲーについては信頼性を重んじ直近四半期決算情報から引用した。iPhoneについては情報がほとんど未公開のため,契約台数は推定値,月間PV数についてはGoogleに買収されて話題になった AdMob最新発表資料 から次の計算式で算出している。

・モバイル広告で圧倒的なシェアを持つAdMobの配信PV数を基礎とし,契約台数比率で国内数値を算出
iPhone国内PV推定値 (2009年10月度)
= AdMob全スマートフォン配信PV数 * iPhoneシェア * (iPhone日本推定契約台数/世界推定契約台数)
= 10,189,424,273PV * 50% * (2,600,000台 / 57,000,000台)
= 232(百万PV)

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基礎データのポイントとなるのは「会員あたりの月間PV」と「会員あたりの課金売上」だ。アプリもサイト本体と同様の数値であることを前提としている。ただしmixiにおいては「会員あたりの課金売上」はオープン化にともない今後かなり伸びることが予想されることを注記しておきたい。また同じくmixにおいてはPCと携帯で数値が異なるが,今回は単純化のために同一としてすすめている。

その他の詳細データについてはこちらの記事を参照されたい。
【2009年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi,モバゲー,GREEの業績比較

■ mixiアプリの収益モデル

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この表がすべてのプラットフォーム比較のための共通ものさしだ。まず成功度合いによって,左から,天井アプリ(順位で上位1%に入るもの),上位アプリ(同様に上位10%),普通アプリ(同様に上位50%)とした。その3パターンの①想定ユーザー数については,現時点で約600のmixiアプリを参考にそれぞれ,100万人(mixiアプリ6位データから),10万人(60位データから),1万人(300位データから)と設定した。

②想定稼働率は無料アプリ特有のもので,登録ないしダウンロードしても実際にはほとんど利用しないユーザーの比率だ。これは「サンシャイン牧場」の月間アクティブユーザーが80%であること等をもとに独自推定値とした。

また③はmixi手数料20%,⑤は上記3パターンを「mixiアドプログラム」に適用したPV単価とした。

⑥広告売上とその算出パラメータは青字
⑧有料課金売上とその算出パラメータは緑字で表示しており,各ロジックは計算式の欄に記載している。

⑪結論としての月間予想売上は,天井アプリで3133万円とかなり高収入だが,上位アプリになると125万円,普通にいたっては2万円と厳しい数値になると予想する。またこの場合,⑫ARPU(ユーザー1人あたりの月間収益)はそれぞれ,31円,12円,2円となる。

またライフタイムバリューを予想するために⑬アプリ寿命をFacebookの事例を参考に独自設定している。ただしこのアプリ寿命はアプリ種別やゲームのタイプによって大きく異なるのであくまで一つの平均的目安としてほしい。

最終的な⑭累積売上は,月間売上にこのアプリ寿命を掛け合わせて算出している。天井アプリで1億5664万円,上位アプリで374万円,普通アプリでは2万円と,恐ろしいほどの格差がつくのがソーシャルアプリの世界であることがわかる。特にmixiの場合はPV単価を5段階で設定しているのでその傾向が強い。


■ モバゲー・アプリの収益モデル その1

モバゲーの場合,有料課金モデルが多様なことが特徴だ。mixiと同様のインプレション型(CPM)に加えて,アフィリエイト型(CPA),クリック課金型(CPC)が用意されており,さらにモバゲーのアバターをアプリで利用することも可能となっている。ただしこの場合は通常手数料の70%とは別途に販売手数料・回収手数料が徴収されるため収益モデルが異なるので「その2」とし,「その1」はオリジナルのバーチャルグッズを使用するゲームの収益を算出する。

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ものさしはすべてmixiモデルと同一にしてある。モバゲーはmixiとほぼ同等の会員規模のため,①想定ユーザー数も同一に設定した。今後の競争状態によっては差がつく可能性がある。

まず③は手数料がmixiより10%高いので70%,⑤PV単価は3パターン共通で本体と同じ0.035円と設定した。mixiと比較して11倍と圧倒的に高いのが⑦会員あたりの有料課金単価48.4円だ。

これにより,⑪月間予想売上は,天井アプリで4980万円,上位アプリで311万円,普通アプリで12万円とそれぞれmixiより上回ると予想する。⑫ARPUはそれぞれ,50円,31円,12円となる。ただしmixiも今後有料課金比率があがると予想されるため,天井アプリではほぼ同等と考えたほうが良いかも知れない。

⑭累積売上は,天井アプリで2億4900万円,上位アプリで934万円,普通アプリでは12万円と,やはり恐ろしいほどの格差がつく。ただしセカンドレベルの上位アプリでも相当の収益が挙げられるのがモバゲーの特徴だろう。


■ モバゲー・アプリの収益モデル その2

モバゲーのアバターを利用するアプリでの収益モデルは次の通りだ。

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赤字部分の販売・回収手数料が発生する(要するに仕入値がある)点が「その1」との相違点だ。この比率は現在検討中とのことなので,予想値として50%と設定している。

⑪月間予想売上は,天井アプリで3625万円,上位アプリで227万円,普通アプリで9万円,⑫ARPUはそれぞれ,36円,23円,9円,⑭累積売上はそれぞれ,1億812万円,680万円,9万円となる。


■ iPhoneアプリの収益モデル その1

iPhoneアプリの典型的な収益モデルはダウンロード時のワンタイム課金であり,これがmixiやモバゲーと大きく異なる点だ。デベロッパーとの厳しい機密保持契約の影響もあり多くの情報がクローズとなっているが,いくつか参考になるデータがあるのでピックアップしておこう。

・ Pinch Media社による調査データ
Pinch Mediaの調査によると、iPhoneアプリケーションの平均「賞味期間」は30日未満 (TechCrunchJapan)
・ Adwhirl社(のちに前述AdMobに買収)による調査データ
無料のiPhoneアプリでも大金が稼げる (TechCrunchJapan)

また実際の開発者によるプログも大変貴重な情報なのでご紹介しておきたい。
iPhoneアプリって儲かるの? (fladdict)

これらのデータを参考に,全世界ではなく「日本国内市場を対象にした日本語ゲーム」という想定で算出したものが次の表だ。

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このモデルは実にシンプルだ。①想定ダウンロード数と⑨ダウンロード単価をかけて③iTunes手数料70%を控除すれば良い。

①ダウンロード数の想定は極めて困難だが,上記ブログをはじめネット上の情報を総合して独自設定している。また⑨ダウンロード単価はiPhoneアプリ調査サイトである 148Apps.biz より引用している。ゲームを前提に1.39ドルとしているが,電子書籍などを含む全
アプリでは2.56ドルであることに注意したい。

結果として,⑪月間予想売上は,天井アプリで438万円,上位アプリで44万円,普通アプリで4万円,⑫ARPUは共通で88円,⑭累積売上は,2188万円,131万円,4万円となる。


■ iPhoneの収益モデル その2

最後に,無料アプリで広告サービスを活用した場合の収益モデルを検討しておこう。

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まず①想定ユーザーだが,前述Pinch Media社データ内に「無料アプリのユーザー数は有料アプリの7.5倍」との記述があるため,それを転用して「その1」を7.5倍にしている。

ここでさらに想定困難なのは無料アプリのためユーザーの利用率も相当低いこと。同資料によると,無料アプリの実際の利用率はダウンロードしたユーザーの20%に過ぎず,30日経過後の利用率はわずか5%とある。これらのデータを元に②稼働率を独自想定したが,これはアプリによって極めてバラツキがあるため,あくまで仮定の数値であることをお断りしておきたい。

④予想PV数は前述の通りAdMob社資料から国内値を算出,⑤PV単価についてはAdMob社は0.03ドル-2.12ドルと設定レンジがあるため,日本の トラフィックゲート社 数値(広告主はPV単価で1.2円,デベロッパー還元のベースは0.5円)から0.5円と設定した。

これらの前提とすると,⑪月間予想売上は,天井アプリで609万円,上位アプリで30万円,普通アプリで2万円,⑫ARPUは,16円,8円,4円,⑭累積売上は,3045万円,91万円,2万円となる。

なお,iPhoneについは以下の記事も参考にしている。

iPhoneアプリに広告を挿入してガッチリもうけるのだ (@IT)
有料ゲーム危機の時代 iPhoneアプリは「ゼロ化」の法則に立ち向かえるか? (IT PLUS)
PSPに迫る勢い iPhoneが変えるゲーム市場のルール (IT PLUS)
iPhoneアプリの1年 -- 開発者から見たApp Storeの功罪 (CNET)


■ 収益性から見たプラットフォーム選択の結論

現時点ではモバゲーがベストな選択肢か。天井アプリ(上位1%)だけでなく,上位10%程度に入れば収益性の高い事業となる。mixiの場合,現時点のPV5段階設定では天井アプリ以外の収益性がやや厳しい。

個人で大ヒットをあてれば,その後は遊んで食っていけるようだ(笑) ただいずれにしても普通レベル(順位で50%程度)のアプリでは利益にはほど遠い結 果であり,宝くじ感覚といえるかも知れない。現在600程度しかないmixiアプリだが,Facebookは35万,iPhoneも10万タイトルを超え ており,今が絶好の参入チャンスであることは間違いない。

iPhoneについては現在のビジネスモデルはかなり厳しい。ただし「アプリ課金」が開放されたこれからが本番だろう。今後はmixi,モバゲー同様に,アイテム課金やプレミアム課金ができるため利益率も高まると思う。


以上,今回の記事ではアプリの収益性にフォーカスしたが,後日,多面的に見た各プラットフォームの比較などを記してゆきたい。

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最後に。当記事での推定は必ずしも正確ではなく,ひとつの予想値として捉えてください。またこれに関連した正確な情報や有益な情報などあれば,ぜひ筆者あてご連絡ください。訂正等があれば順次当記事に【追記】していく形式をとらせていたたぎます。どうぞよろしくお願いいたします。

【追記】
有料課金分は各社手数料(mixi20%,モバゲー30%)とは別に回収手数料がかかります。各社に確認したところmixiの場合は一律10%,モバゲーの場合は現在キャリアと交渉中とのことでした。参考までmixiを例にとると,100-(1×決済手数料10%)-(0.9×mixi手数料20%)=72% と,実際に手元に残るのは有料課金売上の72%となります。


【参考記事】
mixi,モバゲー,iPhone 徹底比較調査時の裏ネタ公開。ソーシャルアプリ開発に役立つチャートまとめ (2009/12/2)
【2009年8月最新版】Facebookアプリ最新ベスト50に学ぶ,mixiアプリ成功の秘訣 (2009/9/3)
歴代最強のFacebookアプリ「FarmVille」,超ヒットの秘密を探る (2009/9/10)
【2009年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi,モバゲー,GREEの業績比較 (2009/11/12)


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