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企業Twitter開局大作戦 ~ 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」

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前話 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」 からの続きです

 
製品プレスリリースを2週間後に控えた日の勉強会。発表とともにTwitterアカウントとブログを開始することになり,有志メンバーを囲んでその作戦会議が行なわれた。特に雪乃は当面Twitterとブログの専任担当にしてもらったため,やる気まんまんだ。

ツイートとブログのコンテンツ運用とユーザー応対が彼女の仕事だ。勉強会ではまず成功している企業アカウントの特徴をみんなで話しあった。「想定見込み客層」であるタブレットに興味を持つIT系アーリーアダプターに有益な最新ニュースを配信すること,「どじっ娘による軟式ツイート」によりユーザーから親近感を得ること,その中に20%ほど企業からの案内(ブログ更新,製品情報,限定セールス情報など)を入れてブログや製品サイト,開始予定のコマースサイトに誘導するという方針で固まった。

またユーザーとの交流はもっとも大切なポイントだ。可能な限り早くて誠意ある応対をすること,想定外の問題が出たら,まず運用チーム(青島,すみれ,真下)にリアルタイムに相談し,さらに困難なものは和久さんと袴田課長に相談することにした。いずれにしてもクイックレスポンスが大原則だ。

Yahooshoフォロワー数約24万人を超える日本で最大級の商用アカウント ヤフーショッピング @yahoo_shopping では,(2009年9月の統計では)ツイート数は日平均30回で、内訳は,個別対話(@でリプライ)が16回/日,ニュースなどが3回/日,Webサイトへの誘導は11回/日だ。顧客への対応や会話と宣伝の比率、リアルタイム性の高い話題の盛り込み方など,お手本になるアカウントだ。チームは3名,リーダーの長村氏プラス女性2名がシフト性で対応している。リプライは原則できる限り返信しているが,2009年3月開始以来,誹謗中傷などがほとんどないことにスタッフ一同驚いておられるとのことだ。(さらに詳しい情報は 「Twitterマーケティング」 にて)

Katokichi_2 デジタルネイティブないしそれに近い若い女性による柔らかいツイートが注目を集めている。朝日新聞 @asahi のゆるいサッカー中継や,広瀬香美さん @kohmi の「ヒウィッヒヒー」を元祖として,最近ではカトキチ @KATOKICHIcoltd の柔らかツイートなどが軟式企業アカウントとして注目を集めている。ヤフーショッピングの方々も驚いているように,Twitterは他のソーシャル・ネットワークと比較してオープンで穏やかな文化が特徴で,炎上の類は極めてまれだ。現在日本のTwitterのコアユーザーは30-40代男性であり,それが彼女たちのドジや柔らかさを暖かく受け入れている理由のひとつかも知れない。朝日新聞もそうだが,お堅い企業ほどそのギャップが驚きとして,しかも好感を持たれて伝播していく傾向がある。

【参考記事】
若い女性がソーシャルメディアのリード役
「ヒウィッヒヒー」Twitter伝説の夜と、ネットコミュニティにおける「ドジっ娘」について考える
Twitterの「軟式企業アカウント」のツワモノたち
元気がいいTwitterの軟式企業アカウント

 
雪乃  青島さん,ニュースとか企業からの案内はSMS社の他部門情報も入れますか?
青島  1日のツイートは個別の顧客応対をのぞくと10-30件ぐらいがベストで,それ以上になるとタイムラインを埋めてしまってスパムチックになってしまうよね。だからこのアカウントはSMSタブレットにしぼった方がいいと思う。顧客層も全然違うしね。
雪乃  わかりました。私,しっかりドジッ娘の勉強しますね!
真下  心配ないですよ。雪乃さんはそのままで大丈夫ですよ。
雪乃  真下さん,うるさい。ちゃんと仕事してください。
すみれ 青島君,ブログなんだけど,創り手の熱い思いやこだわりを伝えたいよね。私の方で社内外の関係者で熱い人をピックアップするから,それを雪乃さんに突撃インタビューしてもらわない?
青島  ですよね。雪乃さん,忙しくなるけど,iPhoneを会社で手配しとくからがんばってね。
真下  iPhoneあれば,インタビューしているその場でツイートや写真アップもできますよね。往復の電車でツイートも確認できるしね。
雪乃  はい。がんばって突撃インタビューして,うちの製品の良さを思いっきりアピールしちゃいます!
すみれ タブレット関係の最新ニュースなんだけど,競合製品の情報とかはどうする?広報部門はNGって言い出しそうだけど。
青島  アーリーアダプターは情報感度がいいから,どのみちそのニュースは他でキャッチするよね。であれば,うちのアカウントで他社も含めて最新情報がとれるということでユーザーとの絆を深めた方がいいんじゃないかな。雪乃さんの柔らかトークをコメントで挿入すればきっと好感あがるし。お客さんとは長い付き合いだしね。
すみれ フォロワーを増やすには,可能な限りの顧客接点にアカウントを露出することね。会社のホームページと製品パンフには青島君と雪乃さんが有志でTwitterをはじめたっていう情報を入れてもらうように部長にかけあってみる。製品発表のプレスリリースにはこのTwitterストーリーを入れるようにするね。仲のいい記者に事前に相談するけど,青島君,日経に載ったらキャビアたっぷりの夕食一回ね。
真下  すみれさん,社内報にものせて協力を募りましょうよ。メールの署名に入れて欲しいとか。イントラのニュースでも流しますよ。
青島  ありがとう。営業部では人脈フル動員で告知してもらうよ。メーリングリストでもストーリーとともに告知してもらおう。
雪乃  私のTwitterフォロワーや知り合いのブロガーにもお願いしますね。それから時間があれば,Androidとかタブレット関係のツイートやハッシュタグ,リストをチェックしてめぼしい人をこちらからフォローしてみます。
青島  ありがとう。雪乃さん。じゃ,みんな,現場の意地,見せてやりましよう!絶対,成功してやるかんな!

フォロワー獲得のための基本動作
・ あらゆる顧客接点にアカウントを告知する。そのためには各部門の協力が不可欠
・ ユーザーに有益で,かつ人間味あるツイートを工夫する。今,旬なのは軟式ツイート
・ もっとも強力なのは,RTしやすいタイムセールや在庫限定のアウトレット情報
・ アカウント開設のストーリーをまとめ,メディアにアピール
・ ブログを同時に開設し,知名度向上を図る。ブログでは必ずTwitterアカウントをアピール

フォロワー獲得のための応用動作
・ ハッシュタグを活用。ただし,#followmeJP, #sogofollow 等は個人向けなので企業にはお奨めしない
・ ツイート検索で絞込んだユーザー,同業企業フォロワーなどを積極的にフォロー
・ キャンペーンを活用(×人フォローでタイムセール等。ブランディング上は社会貢献との関連付けが望ましい)

 
そしてついに有志メンバーのTwitter,ブログは立ち上った。すみれたちの努力も実り,ホームページやパンプレット,社内報などに告知されるとともに,日経産業新聞,ITmediaをはじめ数媒体に,「タブレット紹介プラス有志メンバーによるTwitter立ち上げ記事」として取り上げてもらった。それがキッカケで 「Naverの元気がいいTwitterの軟式企業アカウント」に掲載された上,雪乃の天然ボケ・ツイートが炸裂し,発表わずか1週間でフォロアー1000人の大台を突破したのだ。

ここで企業アカウントの規模を見てみよう。2009年9月5日の時点のデータだが,世界のトップブランド100社において,Twitterを開始している企業は56社だ。その80%以上は開設から2年以内と若いアカウントで,57%はフォロワー数1000人未満に留まっている。したがって一般企業であれば,アカウント立ち上げ後,最初の目標を1000人程度におくのが良いだろう。

  
雪乃  青島さん,ついに1000人超えました!
青島  雪乃さん,すごい人気だね。ファンクラブもできちゃいそうだね。
雪乃  フォロワーの人たちも暖かいし,ブログも30%以上Twitterからの流入ですね。突撃インタビューで忙しいけど,この仕事めちゃくちゃ楽しいです。
すみれ 広告宣伝部でも注目されてて,今日,正式に企業公式アカウントにしないか会議してたよ。
真下  すごいじゃないですか。そしたらいろいろやりやすくなりますよね。
すみれ そうかなあ。ちょっと心配してるんだよねぇ。管轄がどこになるかわからないけど。

 
ついに有志がはじめたTwitterとブログは晴れてオフィシャルとなり,社内組織として専任タスクチームが設けられた。が,すみれの悪い予感は的中した。勉強会メンバーは全員タスクチームに加わることになったのだが,チームリーダーは広告宣伝部の次期トップと噂される才女,沖田仁美次長が就任することになったのだ。社長からの信任も厚く,日頃から無茶をする青島への監視役の意味合いも含む人材配置だった。第一回のタスクチーム会議でさっそく沖田がカウンターをはなった。

沖田  沖田です。よろしく。ではまず,青島さん。Twitterとブログの状況を報告しなさい。
青島  現在,開始2週間でフォロワー数は2000人を超えて,順調に増えています。ブログへの流入元の33%はTwitterで,ブログは日平均1000PVになっています。内容はまずユーザーの信頼を得るために開発サイドの想いを伝えることをメインとしています。Twitterの配信割合は.50%が最新ニュース,30%が雪乃さんの柔らかトーク,20%がブログや製品案内です。来週にコマースサイトが立ち上がり直販出荷がはじまりますが,出荷前準備で大変な中,各部門にはご協力いただいています。
沖田  で,売れるの?
青島  それはまだ未知数です。タブレットはAppleやDELL,HPなど競合が多く,ブランドの弱いSMS社製品を購入してもらうための障壁は高いです。ブランドの認知アップと信頼醸成をするとともに,配信コンテンツなどで差別化する必要があるでしょう。私見ですが,少なくともスタート時点ではマスではなくニッチを狙うべきです。今,ちょうど教育関係の既存取引先に対して重点的にコンタクトしており,教材コンテンツ配信とともに教育機関にタブレットを一括納品できないか営業しているところです。
沖田  わかりました。これからはTwitter運用記録を日次で私宛メールしてください。内容は日次業務報告と全ツイートを一覧で。それに全フォロワーの個人属性表を作成してください。
青島  ツイートなんて見ればわかるじゃないですか。それに全フォロワーの属性表なんて時間かけても無意味ですよ。ツイートやブログ書く時間なくなっちゃうじゃないですか。
沖田  私はTwitterは見ません。内容は私の方でチェックして,週に一度,社長に報告します。時間が足りなかったら残業して。 以上
 
次回 に続く)

 
【企業Twitter開局シリーズ】
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第三話 コンサルタント灰島秀樹」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第四話 ブログ・コメントを封鎖せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「最終話 ソーシャルメディアよ,永遠なれ」

 
【in the looop 2009年 アクセス・トップ7記事のご紹介】

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最新の筆者著書です。 『Twitterマーケティング 消費者との絆が深まるつぶやきのルール』

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