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企業Twitter開局大作戦 ~ 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」

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前回エントリー「大企業はなぜソーシャルメディアを恐れるか」 の続篇,社内でいかにソーシャルメディア活用を促進していくかについて,攻めと守りの両面から作戦を考えてみた。よりリアルに理解いただけるよう,ストーリー仕立てですすめていきたい。時代設定は今から半年先,2010年7月だ。

 
シンバシマイクロシステムズ(以下,SMS社)に勤めている青島俊作は,営業成績No1のセールスマンだが,いつも顧客のことを第一に考え,常に自分の信念に従って行動する熱い男だ。組織の官僚主義を嫌う反面,古いSIer体質がしみこんだSMS社の将来を真剣に憂いている。

SMS社は基幹系システム開発を得意とする社員3,000人の中堅SIerだ。鉄道運行システムなど既存顧客からの大型案件で安定した収益を上げていたが,WEB化や携帯対応が遅れ,5年連続での売上減少に経営陣は大変な危機感を持っている。

青島が所属する営業3課の主力商品は,SMS社が起死回生を図るために大規模投資して台湾の関係会社と共同開発した大型商品「SMS Androidタブレット」と関連サービス(新聞,雑誌,テレビ番組,映画,音楽などの月額会員)だ。SMS社初のB2C商材であり,何から何まで初体験,かつ会社の存亡をかけた部門である。

しかし営業現場は立ち往生に近かった。社長の鶴の一声で開発がすすんだタブレットだが,B2C実績のないSMS社製品を扱ってくれる代理店は皆無に近かったのだ。そこで青島が注目したのはWEB直販を補完するTwitterとブログ,それにコミュニティだ。タブレットのようなアーリーアダプター向けIT商材はTwitterユーザーと完全に重なること,月額会員のため顧客との継続的な接点が必要なこと,ブランド力に劣るSMS社が一定シェアを取るためにはクチコミパワーが不可欠と考えたからだ。

しかし管理層はTwitterとは何かも知らず,広告宣伝部は保守的でマスメディアへの露出しか考えていない。しかも予算は雀の涙ほどだ。コミュニティ構築には情報システム部門の関与が必要だが,TwitterやYouTubeの社内閲覧も規制しているガチガチのセキュリティ重視派が大半を占めており,10年かかっても説得できそうにない。

青島はこのアイディアを袴田課長に相談した。Twitterとか何か,なんでソーシャルメディアが必要かなど何度熱く語ったかわからない。しかし課長の答えはいつも決まっている。「そんなこと考える暇があったら,足を使って営業してよ」

途方にくれた青島は,大先輩で営業法務担当の和久平八郎に愚痴をこぼした。

青島  和久さん,このままじゃうちの会社,ほんとうに潰れまちゃいますよ。
和久  青島,Twitterやブログはよくわからんが,正しいことをしたければ同志を募るんだ。社内でそのアーリーアダプターってヤツを集めてみたらどうだ。

大手代理店系総合制作プロダクション(年商2000億円,従業員数1700人)関西支社のIC制作推進部長で,自らソーシャルメディア伝道師として活動されているuchida_y氏(以下,U氏と省略)の事例を紹介したい。

U氏の感じている自社の課題は (1)社員のITリテラシーが低いこと,(2)情報共有ができないこと,(3)できるスタッフほど忙しいこと など。特に国内外での成功事例といった商売に直結する情報共有は,商談成功のキーとなるものであるにもかかわらず,満足になされていない現状に危機感を感じていた。

そのためにU氏が考えた作戦は,自分自身がコンテンツアグリゲーターとなり,最新情報をシェアするとともに,アンテナを張っている社内社員のハブになることだった。そして自分自身がビンときた情報をセグメントして週1回,個人メールとして社内配信しはじめたのた。メインの情報収集元はTwitterだ。配信先は同僚部長5人,事業部長2人,チーム10名と小規模でスタートしたが,次第に社内クチコミされ,忙しいエース級スタッフからも送って欲しいと依頼がくるようになる。(エース級スタッフはそれをさらにチーム若手に転送している) そして社内だけではなく関係社員や外部ブレーン(出版社役員,ゲーム制作会社役員,映画監督,IT系CEO,大手翻訳会社CEO,映像クリエーター,大手コンサルスタッフなど)にも配信先を拡大している。

心がけていることは「量より質」。中途半端な沢山の情報が毎日送られてくるMLより,週1回でも信用筋から届くセグメントされた厳選情報(本人コメントつき)の方が的確に響くのだと実感されたとのこと。Twitterは情報入手元(ヘッドラインでチェックできる)と人脈づくりとして使えるツールとの認識を強められたそうだ。部門トップ自らが最新情報を入手し,コンテンツアグリゲーターとなっている貴重な事例だ。

筆者自身,社長自らループス社内外にコンテンツ・アグリゲーションしていることにも通ずる考え方であり,大変に共感するものがあった。ちなみに筆者の情報ルートは.「RSS → 斉藤が厳選 → Twitter/Blog」という流れだが,U氏の場合は「Twitter → U氏 → Mail」の流れだ。また筆者Twitterもよく閲覧していただいており,そのケースでは氾濫するネット上の情報を 「国内外数百のニュースソース → 斉藤が厳選 → U氏が厳選・セグメント化 → U氏メール配信」 と二重フィルターでセレクトされた高付加価値情報がU氏の社内外人脈に届けられていることになる。

もうひとつ,社内勉強会を開く際には,私が過去に作成した資料も活用できると思うので掲載しておきたい。
(勉強会やプレゼンなどでご自由にお使いください。さらに詳しくは こちらの記事 をどうぞ)

■ソーシャルメディアの今を,1時間で理解する(by Looops, 2009年9月資料なので最新情報ではない)

Ppt


■Social Media Revolution
(by Socialnomics, プレゼン前に流すとインパクト大)

 
青島がはじめた勉強会とメール配信は社内をクチコミで伝わり,複数部門から危機感を感じている志高い社員が集まってきた。同じ営業部からは新人でデジタルネイティブの柏木雪乃,広告宣伝部からは広報のクールビューティー恩田すみれ,お堅い情報システム部門からも東大卒の真下正義が集まった。そして勉強会の二次会でいよいよ青島は切り出した。

青島  来月発売のSMSタブレットで,Twitterとブログ使って草の根営業したいと思ってるんだけど。
雪乃  青島さん,私手伝います。大学時代からTwitterやブログやってるんです。英語も大丈夫です。
すみれ
 青島君,私も手伝いたいけど,会社でやるとなると広報課長を説得するの大変だと思う。実績ないし,炎上とか心配性なんで。
真下  じゃあ,個人の職責ではじめるっていうのはどうですか?そこで実績をつくれば会社も理解しやすいんじゃないかな。

真下のアイディアに触発された青島は,和久さんに相談する。そこで和久さんは袴田課長を説得するポイントを三つ青島に伝授した。一つは誰でもわかるようなメリット,次に誰が運用するかを明示すること,最後にトラブルがおきても会社に迷惑がおよばないことを理解させることだ。青島はアドバイスに従い,勉強会チームとともに提案資料を作成した。骨子は次のような内容だ。

 
■ メルマガの補完としてTwitterとブログをはじめたい

  • Twitterとメルマガは実際はツール主旨が異なるが,リテラシーの低い上司にはこの言い方が最も自然で抵抗が少ないとの結論になった
  • Twitterは新しいメルマガであり,メルマガ配信と同時に行なう。メルマガと比べるとタブレットに興味を持つアーリーアダプターが圧倒的に多い
  • Twitterはメルマガと違い,数百万人のユーザーが同じ場に参加しているため集客機能もあり,それでいて利用料はタダな点が凄い
  • メルマガ閲覧率はジャンク扱いされて極端に下がっている
  • Twitterは140文字制限があるので,ブログに誘導して詳しい情報を伝えたい

 
■ Twitterブログ運用は誰がどのようにするか

  • 有志チーム(青島,雪乃が中心となり,すみれ,真下,和久がチェック機能として参加する)がTwitter運用を行なう。
  • Twitterクライアントとしては共通アカウントをチームで運用できる専用クライアントCoTweet を使う。
  • Twitterキャラクターは雪乃さんの天然ゆるキャラを前面に出し,軟式タイプ で好感度を上げる。
  • Twitter内容は Google Readerからピックアップした役立ち情報を1クリックで自動ツイートできる仕組みを取り入れる。こちらは青島が担当するが雪乃やすみれもバックアップでできるようにしておく。
  • ツイートの配信割合は,雪乃ゆるきゃらトークが3割,役立ち情報が5割,ブログ誘導やニュースが2割,1日の配信数は20程度を目安とする。
  • ユーザーとつながり感を出すためにもフォローしてくれた人にはフォローを返す。ただし2000人を超えると110%しかフォローできなくなるので,1ヶ月Twitterにアクセスしていない人は月次でリムーブする。その際のツールはTwitter Karmaを利用する。
  • ブログは製品情報をメインコンテンツとする。雪乃が社内企画製造部門やパートナーに突撃インタビューし,作り手の熱意や想いを伝えてゆきたい。それ以外にも製品サービスの最新情報などをリリースする。こちらも雪乃のゆるキャラを前面に出す。

 
■ 会社に迷惑がかからないリスク管理の提案をどうするか

  • プロフィールに役職の明示(SMSタブレット開発に関与している社員有志が管理するアカウントです)する。
  • 意見は会社の承認を得たものではなく個人的な善意に基づく見解であること,その意見によって仮に損害を及ぼしたとしても賠償はできないことを明示。さらにお問い合わせ先メールも併記する。
  • 範疇外あるいは回答に困った場合には上長に相談する。また関係部署がわかる場合にはそちらを紹介する。
  • 問い合わせにはできるだけ迅速に回答し,誤りがあれば直ちに訂正する。
  • 禁止事項を共有・チーム内で徹底する。(誹謗中傷,暴力的な発言,無礼,会社並びに個人のイメージを悪化させる行動はしない)
  • 個人的な行動とはいえ,社内規則(就業規則、守秘義務、個人情報保護方針など)に従う。


青島はこれらを3セットで袴田課長にプレゼンテーションした。(ソーシャルメディア云々を言うと話がややこしくなるのであえて提案からははずしている) 会議では日頃保守的な和久さんがフォローしてくれたことも大きかった。

和久  これだけの部門がやりたいって言ってるんだ。ここは若いもんにまかせてみたらどうだ。
袴田  じゃ,まかせるけど何かあったら責任とってよ。
青島  まかせといてください。必ず会社にプラスになりますから。
雪乃  私も一生懸命かんばりますから。ねっ,青島さん。

ソーシャルメディア運用にむけて,SMS社の重いとびらがついに開きはじめたのだ。

参考まで,Twitter101の成功事例紹介にも入っているAmerican Apparel社(@amaricanapparel,フォロワーは5万人をすでに超えている) では,Webマーケティング部門の社員であるリサさんが顧客と直接対話できることに目をつけてはじめたものだ。今やこのアカウントはチーム運用されており,会話型マーケティングの先駆者として多くのメリットを企業にもたらしているが,もとはと言えば社員個人のアカウントが原点になっているのだ。(詳細な事例紹介はこちら) そもそもGREEやpixivなどのSNSコミュニティも個人がはじめたものが巨大化したものだし,ソーシャルメディアにおいては「社員発,本社へ」が本流となってくるかも知れない。

次回 へ続く)

 
【企業Twitter開局シリーズ】
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第一話 Androidタブレットを販売せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第二話 軟式ツイートと最初の難事件」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第三話 コンサルタント灰島秀樹」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「第四話 ブログ・コメントを封鎖せよ!」
・ 企業Twitter開局大作戦 ~ 「最終話 ソーシャルメディアよ,永遠なれ」

 
(注) 当ブログ記事は 「お堅い企業でソーシャルメディアを推進する作戦」(2010/1/9) というエントリーを,連続ものにするためにタイトルを変更したものです。

  
この記事では,青島の如く熱いスピリットを持つ当社社員のアイディアも参考にしています。
良い機会なのでご紹介を。各人ともフォロー大歓迎です。

・ ソーシャルメディア技術や法務を得意とする副社長 福田浩至(和久さん役) Koji_Fukuda JICコラム執筆中
・ 元プロ・ミュージシャン(現バンド)で広くソーシャルメディア全般に通じている 上梨能寛 y_kaminashi
・ ゲームマニアで,ソーシャルゲームに深く精通している 岡村健 kensukeo CNETブログ執筆中
・ 朝日新聞社,セブン&アイ社など大規模コミュニティを手がけた凄腕PM 岡村直人 okamuranaoto
・ プロサッカーでアルゼンチン留学。新進気鋭の誠実営業マン 北野達也 TatsuyaKitano

   
【in the looop 2009年 アクセス・トップ7記事のご紹介】
1位 Google Phone"Nexus One" ネット上のバズを総まとめ (12/13) 
2位 mixi,モバゲー,iPhone 徹底比較 「どのアプリが一番儲かるか?」 (12/01) 
3位 個人が印税35%の電子書籍を出版できる時代 - Amazon Kindleの衝撃 (12/30) 
4位 【速報】昨日からネットで大騒ぎ "PhotoSketch"が凄い件 (10/07) 
5位 【2009年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi,モバゲー,GREEの業績比較 (11/12) 
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7位 Googleは20%ルールによってイノベーションのジレンマを回避している (12/21) 

斉藤Twitter。ご連絡などお気軽にどうぞ。 http://twitter.com/toru_saito
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最新の筆者著書です。 『Twitterマーケティング 消費者との絆が深まるつぶやきのルール』

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