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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

『仮想化』はどうも難しいみたいだ

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商売柄他人にパワーシステムと呼ばれるコンピュータの価値を説明する機会が多いのであるが、特にIT系の人が対象でない場合に説明が難しい最近の流行語は、『仮想化』であるように思う。サーバー統合でもクラウドでも話を突き詰めて行けば、どこかでこの言葉に遭遇する。仮想と言うと仮想敵とか仮想現実とか日常生活にあまり馴染みが無いだけでなく、手元の電子辞書(デイリーコンサイス国語辞典)によると、『かりに想定すること』と、わかったようなわからないような定義が与えられている。こういったあやふやな土台の上に、仮想サーバーだの、仮想ディスクだのと畳み掛けるものだから、どうにかすると聞いている方は煙に巻かれた気分になってしまう。『仮想』という言葉は実は結構曲者に違いない。

コンピュータ技術の世界においては、仮想メモリとか仮想マシンなどといった用語が長年定着しているが、この「仮想」を日常語に置き換えるのはなかなか難しい。僕が受け持っている大学の授業では少々乱暴なのは承知の上で、仮想化を『コンピュータの物理的資源を、人間にとって都合の良いように見せかける技術~例えば、小さいものを大きく、少ないものを数多く、多数の種類を単一に、複雑なものを単純に』と定義している。昨今の仮想化はサーバー資源の統合を意味することが多いのだが、歴史的にとらえるならば、手前味噌の定義の方が元の意味に忠実であるように思う。仮想メモリは高額ゆえに小さなサイズしか搭載できないメモリを、人間から見て実質的に使い切れないほどの大きさがあるかのように見せかけている。仮想マシンは現実には一台しか存在しないにも関わらず、利用者それぞれが自分専用に利用できるかのように見えるコンピュータである(もっともこれはかなり昔の定義かもしれない)。もっと良い定義があればいつでも乗り換える用意はあるのだが、今のところはここに落ち着いている。

そもそもVirtualの日本語訳として使われているのだが、『仮想的な』というよりは『実質的な』とすることでしっくりくることの方が多いようである。オンライン英和辞典なんかを見ると、最初に書いてある訳語は『実質上の、事実上の、実際上の、実質的な◆実体・事実ではないが「本質」を示すもの。』とある。敢えてかどうかはわからないが、2番目にある『仮の、仮想の、虚の、虚像の』から引っ張って訳語を作るものだから分かりにくい。だからと言ってさっきのような長たらしい定義をいちいち繰り返すわけにもいかないので、結局のところ『仮想化』が最もフィットするのかもしれない。

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