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【書評】『2033年 地図で読む未来世界』

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早川書房さまより『2033年 地図で読む未来世界』を頂戴しました。ありがとうございます。ということで、いつものように簡単にご紹介と感想を。

2033年 地図で読む未来世界 2033年 地図で読む未来世界
ヴィルジニー・レッソン VIrginie Raisson 田中 裕子

早川書房 2012-06-08
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まず何よりも印象に残ったのが、本書の存在感。フルカラーの大型本(しかも200ページ弱)ということもあるのですが、「地図で読む」というタイトルの通り様々な地図が使われているだけでなく、最近流行のインフォグラフも多用され、物理的な意味で「情報が押し寄せてくる」ような感覚を抱きました。ちょうど子供のころに、大きな百科事典を引っ張り出してきて、ワクワクしながらページを開いたような感想に近いでしょうか。

しかし本書が扱っているテーマは、残念ながらワクワクするようなものではありません。人口爆発、環境破壊、食糧難、エネルギー消費といった地球規模の問題について、様々なデータを基に2033年の世界の姿を描きながら、いま私たちがすべきことを問いかけるという内容。その視点は全世界を視野に入れるレベルから、1つの国や地方にフォーカスするレベルまでと様々に移動し、表層的な解説に終わらないものとなっています。

ただいくら紙面の容量を増やし、データも巧みにまとめたとしても、ページ数に限りのある本の上で全ての問題を取り上げようとすれば、ある程度限定的な解説になってしまいます。もちろん可能な限り詳しい情報が個々のテーマに掲載されているのですが、テーマごとに掘り下げた専門書と比べるともの足りないと感じる部分があるかもしれません。しかし本書のような世界全体を俯瞰する本の価値は、個々の問題を(議論を分かりやすくするためとはいえ)独立したものとして見てしまうのではなく、それぞれが影響を及ぼしあうものとして捉えて考えることができるという点にあります。『地図で読む未来世界』も例外ではなく、あるページを読んだ後で別のページを開くことで、世界の見方がガラッと変わるという体験ができるでしょう。あるいは離れて見える問題につながりや類似性を発見し、その深刻さを実感するということもあるかもしれません。

さらに本書を読んで全体像を把握した後であれば、他の書籍や新聞、雑誌等で取り上げられる諸問題に対して、より正確な認識や予測を行うことができるようになるのではないでしょうか。著者のヴィルジニー・レッソン氏も、プロローグでこんなことを述べています:

本書で紹介しているシナリオは、起こりうるすべての可能性を網羅しているわけでもなければ、そこで取り上げているテーマが未来の全貌を描き出しているわけでもない。たとえるなら、映画の予告編のように、読者の皆さんはこれを読むことでここには書かれていないことも想像してほしい。本書に掲載されているシナリオとフィクションは、未来の素描のようなものだ。

優れた予告編は限られた情報を与えるだけで、本編の予想をどんどん膨らませることを可能にするものですが、その点では本書は非常によくできた予告編と言えるでしょう。願わくば世界の「本編」が、ハッピーエンドであることを祈るばかりですが。

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