「通過点」という認識
うろ覚えで恐縮なのですが、最近こんなCMがあったことを覚えていますか?(本当にうろ覚えなので、間違っていたら申し訳ありません。)
--- 人間のように着飾った犬が2匹登場して、カフェで(確か)マンション購入の相談をしている。すると一方の犬が「例えて言えば、『結婚するまで優しい男』と『結婚してからも優しい男』の違いっていうことかな」と言い、ある物件の購入を奨める ---
といった内容。要は「我々はご購入いただいた後もお客様のことを気にかけますよ」というアピールなのですが、確かに私たちは「商品/サービスを使ってもらう」までのことには気を配りますが、そこから後のことが疎かになってしまうことがあります。しかしお客様にとっては、むしろその後(住宅で言えば実際にその物件で営まれる暮らし)のことが重要な場合があるはずです。「私たちの商品/サービスの購入/利用は通過点でしかない」と認識することで、優れたサービスや新しいビジネスチャンスというものが生まれてくるのではないでしょうか。
例えば最近も、こんなビジネスが生まれつつあるという記事がありました:
■ 荷物運び込み/1万円洗車/店舗案内 -- もてなし系駐車場 続々(日経流通新聞 2006年6月5日 第20面)
ショッピングセンターやレストランで、「もてなし」を売り物にした駐車場が登場しているという内容。例えば玉川高島屋ショッピングセンターでは、駐車場の受付前に到着するとスタッフが代わりに駐車してくれるサービス(バレーパーキング)や、購入した商品をクルマに運び込んでくれる「ポーターサービス」、料金1万円前後の高級洗車サービスなどを用意。一般の駐車場とは別の駐車場になっていて、現在週2回以上の利用客が200人以上もおり、全体の7割がリピート客になっているそうです。
また表参道ヒルズでは、駐車場ロビーに「駐車場コンシェルジュ」を置き、クルマで来店したお客の質問(「ギフト用品を売っている店はどこ」「託児施設はありますか」など)に答えているそうです。駐車場コンシェルジュを担当している女性2人は、和食店でキャリアを積んだサービス業のプロで、毎日施設を回って情報収集に努めているのだとか。
商業施設のお客様向け駐車場は、まさしく「通過点」に過ぎないサービスです。利用客の「目的地」はショッピングモールや近くの商店であり、そこで買い物を楽しみ、楽しい経験をして家路につくことが最終的な目的なわけです。しかし多くの駐車場では、この点に配慮がなされているとは思えません。例えば、
--- クルマに乗って、大きなショッピングセンターに家族で買い物に出かけた。行きは暗くてだだっ広い駐車場の中を店の入り口を探してさまよい、帰りは大きな荷物と疲れて泣き叫ぶ子供を抱えながら自分のクルマを探した ---
などといった経験のある人は多いのではないでしょうか。最近はIT技術を活用し、空き駐車場を簡単に検索・予約できるようにすること注目が集まっていますが、それはあくまでも「駐車場という通過点を利用しやすくするサービス」であり、「その後の行動がしやすくなるサービス」にも関心が向けられるべきだと思います。
自社の商品/サービスだけに目をとられると、それが利用されるシーン以外の状況に目が向かなくなってしまいます。しかし考えてみれば、人間の生活は常に連続しているものですから、何かを利用し終わったら全く別の状況がスタートするということはあり得ません。「私たちの商品/サービスを通過した後に、ユーザーはどんな行動をするのか、何に困り、何を解決しようとするのか」について思いを巡らせてみることは、どんな場合でも有益なのではないでしょうか。