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【書評】『アダプト思考』

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武田ランダムハウスジャパンさまより、ティム・ハーフォード氏の新刊『アダプト思考』を頂戴しました。ありがとうございます。ということで、いつものように簡単にご紹介と感想を。

アダプト思考 アダプト思考
ティム・ハーフォード 遠藤真美

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ティム・ハーフォード氏といえば、『まっとうな経済学』や『人は意外に合理的』などの著作でも知られる英国の経済学者。ユニークな切り口に定評がありますが、今回もロシア革命前後に生きた技術者の話から、イラク戦争の現場で活躍した大佐の話に至るまで、様々な事例を通じて「アダプト思考」――トライ&エラーを通じて目の前の状況に対応(アダプト)することの重要性を論じています。また同じ流れで現場の状況判断・行動力というものを評価しており、逆に「中央がすべての情報を把握して適切な計画を立案できる」という発想を過ちを招きがちなものであるとして否定。この辺りはベトナム戦争やイラク戦争の事例が引き合いに出されているのですが、ある意味で最近のビッグデータ礼賛というか、行き過ぎたデータ偏重主義に警鐘を鳴らすものとしても読めるかもしれません。

実は原著"Adapt: Why Success Always Starts with Failure"(アダプト:なぜ常に成功は失敗から始まるのか)の紹介を昨年9月に書いていました:

【書評】"Adapt: Why Success Always Starts with Failure"

こちらでも書いたのですが、本書の出版と時を同じくして"Little Bets: How Breakthrough Ideas Emerge from Small Discoveries"(小さな賭け:どのようにしてブレークスルーが小さな発見から生まれるか)という本が出版されています。この本もトライ&エラーによる問題解決アプローチを提唱していて、H.R. マクマスター大佐やグラミン銀行等の事例が登場する点も一緒。時期的にも内容的にも、同じような結論に至る本が続けて登場していたわけですね。同様の主張を行っている本は他にも『リーン・スタートアップ』など何冊かあり、「変化の時代」に有効な行動原理としてトライ&エラー、あるいは実験的思考法とでも呼ぶべきものが支持されつつあるのかもしれません。

そして嬉しいことに、ちょうど"Little Bets"の方も先日邦訳が出版されていたりします:

【書評】GWにお勧めの2冊『リーン・スタートアップ』と『小さく賭けろ!』

ひとまず『アダプト思考』と『小さく賭けろ!』を読んでおけば、実験的アプローチがどのようなものか、また生活やビジネスで実践する際にどのような行動を取れば良いのか理解できるのではないでしょうか。原著の書評でも書きましたが、特に『アダプト思考』の第8章は個人に対する行動指針としてよくまとまっていて、時間の無い方はこの1章だけでも読む価値があると思います。

どちらか一冊読むとしたら?という質問には「どちらも!」と答えたいところなのですが、あえて言うとすれば、「サッと読んでビジネス上で実践に移したい」という方には『小さく賭けろ!』を、「じっくり理解して様々な分野で応用したい」という方には『アダプト思考』をおすすめするという分け方になるかもしれません(もちろんどちらの本も読後の行動・応用に結びつく内容なのですが)。ハーフォード氏は事例をじっくりと掘り下げて書かれているので、『アダプト思考』は読み物としても楽しめるでしょう。一方の『小さく賭けろ!』の方がビジネス書の体裁に近く、読み手を選ばない一冊になっていると思います。

ともあれ今回改めて両方を読み返してみたのですが、2冊ともそれぞれ魅力があり、両方読んで決して損はありません。「小さく賭けてアダプトする」という、これからの時代を生き抜く哲学を身に着ける2冊としてオススメです。

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