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【書評】『彼女はなぜ「それ」を選ぶのか?』

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早川書房さんから、今月上旬に出版された本『彼女はなぜ「それ」を選ぶのか?: 世界で売れる秘密』をいただきました。ありがとうございます。ということで、いつものようにご紹介と感想を少し。

本書の著者はパコ・アンダーヒル氏。そう、ベストセラーとなった『なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学』を書かれた方です。『なぜこの店で~』が早川書房さんから出版されたのが2001年ですから、ちょうど10年前になるというわけですね。10年という時間の流れは、本書『なぜ「それ」を選ぶのか?』にソーシャルメディアを扱う章が登場していることにも窺えます。

さて今回テーマとなるのは、タイトルにも示されているように「女性に選んでもらえる商品/サービス/お店をつくるには何を心がける必要があるか」という問題。女性の社会的役割やライフスタイルの変化によって、女性が望む条件も大きく変わりつつあります。それを生活必需品から家電製品、化粧品、住宅、ホテル、はてはギャンブルに至るまで、様々なジャンルにおいて事例を挙げながら検討したのが本書。統計データやアンケート結果からの推論ではなく、著者が生身の人々と対面することで見出した気づきには、なるほどと感じる点が多いでしょう。焦点が当てられているのは米国の女性なので(日本や欧州諸国の状況も所々で触れられています)、若干イメージしづらい部分はあるのですが。

ただこう書くと、「女性向けのマーケティングなんてもうやってるよ、会社に女の子だってたくさんいるしさ-」という反応をされてしまうことでしょう。また当の女性にとっては、自分自身のことを改めて説明されなくても良いだろう、と感じてしまうかもしれません。仮に本書が「女性はこう感じている」ということを示すだけの本であれば、こうした反応は正しいはずです。しかし本書はそこから一歩踏み込んで、「なぜ男女で視点の差が出てしまうのか」「なぜ男性社員は女性客の立場で考えられないのか」を考えさせてくれる内容であり、そこに本書を読む最大の価値があるように感じています。

例えば本書の中に、こんな一節が登場します。ホテルについて考える章で、著者は「パム」という女性に意見を求めています:

女性にとってバスルームは、滞在を満足いくものにもするし、台無しにもするものだ。ホテルのバスルームは、少なくとも家のバスルームよりは上質であってほしいスペースだ――それ以上を望みたいところだが。パムが上質なホテルのバスルームとして真っ先に挙げた点?質が良くて、機能性が高くて、暖かな照明。「一流ホテルがどうして室内照明と自然光照明のスイッチをつけておかないのか理解できないわ。女性なら夢中になるのに」

「なんで?」

「ほとんどの女性は、自宅のバスルームでどうやって化粧するか、失敗を繰り返しながら学ぶものだから。外が明るくても暗くても関係ないのよ。これはまさしく、女性の毎日の化粧の問題ね。男性は、女性が化粧や髪型、きちんとして見えるかどうか、外に出たときにどう見えるかといったことを考えなければいけないなんて、気がつかないでしょう。もし、自然光では化粧映えしないんじゃないかということを気にしないですむのなら、暗い照明の方がずっとほっとするわよね」

リサーチ会社を雇えば、「女性客は自然光照明のスイッチを求めている」という結果や、「女性客は暗い照明の方がほっとする」という結果を簡単に得ることができます。しかしその結果が出てきた背景を理解するためには、より深いレベルで違いというものを意識していなければなりません。それが無ければ、表面的な小さな違いを小さいままでやり過ごしてしまうことでしょう。

こうした小さな、しかし非常に重要な行動の差というものは、何も男女間にだけ存在するものではありません。デジタルネイティブと彼らの親の世代の間、都市部に住む人々と郊外に住む人々の間、日本人と外国人の間など、様々な集団の対比が考えられるでしょう。そこに生じる「違い」の本質を、どうしたら捉えることができるのか。どのようなマインドを持って、どのようにアプローチすれば良いのか。本書が事例としているのは確かに「女性」ですが、それを別の存在で考える場合にも、本書はヒントをくれると思います。

アンダーヒル氏は外交官の息子として生まれ、子供時代にクアラルンプールやワルシャワ、ジャカルタ、ソウル、マニラなど世界各地を転々としたそうです。こうした経験が、自らの持つ視点を絶対化せず、他者の視点に立つことを可能にした一因となっているのでしょう。彼のようなマインドを持てれば、ビジネスはもっとシンプルになり、消費者はもっと「自分の求めていたものはこれだ!」という体験ができるのでしょうが(笑)。

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