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「他でもみんなこうしてますよ。」

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知り合いがとある金融機関で手続きをしようとした際、保険証の提示を求められたそうです。コピーでもいいか、と聞いたところ、実物ではないとダメとの返事。てっきりコピーで大丈夫だと思っていたその方は、思わず「何でコピーじゃダメなの?」と言ってしまったそうなのですが――返ってきた答えは「ルールですから。他の金融機関でもみんなそうしてますよ」だったそうです。

最初に断っておくと、この方も僕も、実物の保険証が必要という点を変えて欲しいのではありません。言いたいのは「その答えはないんじゃない?」ということ。「ルールですから」という回答は論外として、「他でも同じです」というのも説明としては最悪でしょう。そもそも「何でダメなのか」という質問の答えになっていないですし、相変わらず金融業界は横並び体質が強いのか、独自の利便性を打ち出してお客を集めようとは考えないのか、などいろいろと反論したくなります。せめて「何度も足をお運びいただくことになっていまい、大変恐縮です。今後このような誤解の生じないよう、ポスターやパンフレットで分かりやすい表示を行いますので、ご容赦下さい」ぐらいのことは言って欲しいものですが。

最近新版が出版された『ポジショニング戦略』の中に、こんな一文があります:

立候補者でも、商品でも、あるいは自分自身でも、長所を人に伝えようと思ったら、ものごとを「反対から」見る習慣をつけること。解決策は、立候補者や商品やあなたの頭の中を探してもみつからない。有権者や消費者など相手の頭の中に求めるのだ。注目するのは、発言する側ではなく、受信する側。人々がメッセージを「どう」受け取るのかに集中するのである。立候補者や商品そのもののありようは関係ない・

この言葉、長所を伝えようとする場合に限られないでしょう。忘れて欲しくないメッセージを伝える時、こちらの立場を支持してもらいたい時。そして前述のような、相手の理解を求める時にも言える話だと思います。

「ルールだから」「これが普通だから」という説明は、自分たちの立場、ルールそのものの側から考えたものでしかありません。金融業界の中にいる人々にとっては説得力のある言葉かもしれませんが、お客の側にとっては何も響いてこないメッセージでしょう。そのルールの本来の意味は別の話として、お客様に訴えかけるにはどんな言い方をすれば良いのか。例えば「犯罪者が不正に口座を開設するのを防ぐために、お客様のご協力が必要なのです」といった説明ができないか、考えてみなければいけないのではないでしょうか。

しかしこの「聞き手の側から、聞き手に向けたメッセージを考える」という態度、言うは易く行うは難し、の典型ですよね。僕もどこまで実践できているのやら……明日月曜日、さっそく職場で「お前、そりゃ自分のことしか考えてないメッセージだよ!」と言われてしまいそうだなぁ。

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