IT勉強会カレンダーの定期更新が停止するそうです
IT業界は、日々新技術が登場するせいか、会社を超えた勉強会が盛んである。おそらく、インターネットの文化が影響しているのだろう。
インターネット文化の基本思想は「個人責任による運用」と「情報の共有」である。インターネット上でのコミュニケーションは、所属と個人名を明記するのが基本だった。匿名が禁止されていたわけではないが、所属を名乗らないと「どちらのヨコヤマさんですか?」と聞かれたものだ。
インターネットの商用利用が解禁になり、Windows 95でTCP/IPが手軽に使えるようになった1996年頃から勉強会が増え始め、今ではほとんど毎日何らかの勉強会が行われている。あまりに多いので、情報を探し出すのもひと苦労である。
しかし、世の中には便利なWebサイトがあるものだ。「IT 勉強会カレンダー」にアクセスすると、日本のほとんどの勉強会がGoogleカレンダーとして公開されている。お世話になった人も多いはずだ。
実はこのサイトは、個人の「趣味」で運営されている。いったいどんな趣味かと突っ込みたいが、本当に「好きでやっている」のだそうだ。
「IT 勉強会カレンダー」を知ったとき、URLのあまりの長さに戸惑った記憶がある。Googleカレンダーをそのまま使っているのだから、別に間違ってはいないのだが、ふつうこの種のサービスを公開するときは、適当なURLを持ったWebサイトにカレンダーを埋め込んで使うのが普通である。個人利用ならともかく、一般向けのサービスで生のURLをそのまま使うことはまずない。
作成者の「はなずきん」さんは、マイクロソフトMVPの集まりで何度かお会いした。仕事にも、コミュニティ活動にも力を注ぎつつ、家庭も大事にするバランスの取れた女性だという印象を受けた。その時に、「IT 勉強会カレンダー」は「趣味」で作成されていると聞いてURL問題も納得した。
その「IT 勉強会カレンダー」の定期更新を停止すると、はなずきんさん本人のブログで発表された(IT勉強会カレンダーの情報をいただいての定期的な情報更新やめます)。正確には「情報をいただいての定期的な情報更新」が停止される。理由は、興味の対象が他に移ったこと、家庭内で優先度を上げたいことがあること、だそうだ。趣味に割く時間を減らすには妥当な理由だろう。
手作業でやっている仕事を自動化すれば、少しは時間が捻出できるかもしれないが、精神的な負担も考えると、節約効果は限られる。ここは、はなずきんさんの決断を尊重したい。
この発表があってから、「IT 勉強会カレンダーで人生が変わりました」という投稿があった(IT勉強会カレンダーの思い出)。このブログをはなずきんさんが、自分のFacebookで紹介すると「私もだ」という人が何人も現れた。個人の趣味でやっていることが、人生を変えることもあるのだ。趣味とはいいながら、「IT 勉強会カレンダー」は立派な仕事だった。
「IT 勉強会カレンダー」を使っていた人は、これから不便になる。できれば、誰かがこのあとの更新を引き継いだ方がいいのだろうが、そこはあまり深刻に考えなくてもいい。人の趣味を引き継ぐ必要はないし、本当に必要だと思ったら、必要だと思った人が作ればいいことである。義務感で引き受けたり、強制されたりしても長続きしない。
はなずきんさんにお礼を言うのは良いことだと思うが、これも別に必須ではない。インターネット文化の基本は、恩返しではなく恩送りである。昔は、質問に答えてもらったあと、回答者に向けてお礼だけの投稿をしたら、こんな風に叱られたものである。
メーリングリストや掲示板で回答をもらったら、お礼に加えて「質問と回答を対応させた記事」を投稿しなさい。
どうしてもお礼をしたい場合は、個人宛のメールにしなさい(注:昔は、メーリングリストや掲示板には、自分のメールアドレスを明記するのが普通だった)。
回答者に対するお礼は重要ではなく、メーリングリストを見ている大勢の人、将来メーリングリストに参加して過去の情報を検索する人に役立てる方が重要であるという考え方だ。
だから「IT 勉強会カレンダー」の恩恵を受けた人は、後輩に対して何ができるかを考えて欲しい。その「IT 勉強会カレンダー」の更新を引き継ぐのは負担が大きいが、自分が参加した勉強会の様子をブログで報告するくらいはできるだろう。自分が勉強会を主宰するのは難しいかもしれないが、講師になるのは簡単である(必要なのは勇気だけ)。後進の活躍に期待したい。
なお、はなずきんさんのもう1つの趣味「情報モラル勉強会カレンダー」の方は、これからも更新されるということである。また、Facebookページ「子供とネットを考える会」にも精力的に取り組んでいらっしゃる。「子供とネットを考える会」は、子供を対象にしているため、少々保護側に偏り過ぎる傾向にあるが、大人にとっても役立つ。最近インターネットを始めた親御さんに紹介するのも良いだろう。