技術を習得するための4つのステップ
●月刊Windows Server Worldのこと
出版不況だそうで、コンピュータ系の雑誌も次々と休刊している。
一昔前ならWindows ServerやWindowsネットワークの勉強をするための定番雑誌があった。たとえば「日経Windowsプロ」(日経BP)や「Windows Server World」(IDGジャパン)である。
ところが、数年前から休刊(事実上の廃刊)する雑誌が続いた。最後まで残ったのが「Windows Server World」だが、2009年12月号で休刊となった。同誌の前身は「Windows NT World」で1995年12月に創刊準備号を発刊し、翌1996年6月に月刊化がスタートした。2000年4月には「Windows 2000 World」としてリニューアルされたが、まさかWindows Serverが出るたびに年号を付けて名前が変わるとは予想しなかったのだろう。結局、2003年には「Windows Server World」に変更された。
私は、創刊間もない頃から何度も寄稿しており、懇意の編集者も何人かいたので、日経Windowsプロが休刊になった頃「ライバル誌がなくなって丸儲けでしょう」などと軽口を叩いていたが、実際には紙媒体全体の売り上げが低迷していたようだ。
IDGジャパンは、その後「IDGインタラクティブ」としてWeb媒体を展開したが、2013年4月末で営業を停止した。既にWebサイトも消えている。本ブログの内容の多くは、IDGインタラクティブのWebサイト「Computer World」に掲載したものを題材にしている。
「Computer World」では、技術者向けなのに、本当に好きなことを書かせていただいて本当に感謝している。週末に確定申告の書類をまとめていたら「IDGインタラクティブ」の支払い調書が出てきて涙した。
その後、米国IDG社と日経BP社が提携した。IDGインタラクティブの記事は契約範囲に入っていないらしいが、このへんの動きはよく分からない。
●Webサイトの利用
雑誌と入れ替わるように登場したのがさまざまなWebサイトだ。編集者が内容をチェックし、専任のデザイナーがページレイアウトを行なう商業ベースのものから、一般企業のエンジニアが趣味で書いている個人ブログまで、さまざまなものがある。
検索エンジンの発達により、個人ブログであっても有益な情報は発見しやすくなった。もちろん検索エンジンは内容のチェックをしないから、誤った情報が上位に来ることも多い。しかし、全体としてはそこそこ信頼できる内容が得られることも確かだ。
Webサイトの利点は無償であること、コピー&ペーストによる流用が容易なことだ。掲載されたスクリプトを流用したい場合でも手打ちする必要はない。レイアウトが不完全だったり、読みにくかったりすることもあるが、我慢できないほどではない。肝心の内容が間違っていたりすることもあるが、複数のWebサイトで検証することである程度は検証できるだろう。
Windowsに関して言えば、マイクロソフトのWebサイトがお勧めである。マイクロソフトのWebサイト、特に英語版は以前から情報量の多いことで有名だった。私が「Windows NT 5.0」の記事を書いたとき(これが「Windows NT World」のデビュー作である)は、ベータ版の一般公開すらされていないのに、多くの情報が公開されており驚いた。
ただし、マイクロソフトのWebサイトは検索性が悪いことでも有名だった。今でも決して分かりやすくはないが、検索エンジンが進化したため多少はマシになった。
そして、もっと重要なことはマイクロソフト社員によるブログやTwitterが活発になったことだ。特定の技術分野に詳しい社員のブログを講読していれば、最先端の技術情報が簡単に入手できる。マーケティング担当のTwitterをフォローしていれば、最新の製品アップデート情報が分かる。便利な時代になったものだ。
●勉強会の利用
評論家の岡田斗司夫によると、ある技術を習得するには4つのステップがあるという。「理解する」「やってみる」「成果を得る」「人に教える」だ。
雑誌や書籍、Webサイトで到達できるのは単に「理解する」だけであるが、VMwareやHyper-Vなどを使って試用版をインストールすれば「やってみる」こともできるだろう。Windows Azureなどのクラウドサービスも使える。ただし、Webサイトに記載された情報は断片的であり、自分の疑問は解決しないかも知れない。
そこでお勧めするのが各種の勉強会の利用だ。マイクロソフトなど、ITベンダー主催の勉強会もあるし、個人やユーザー会が主催するものもある。ほとんどが無償か実費程度である。演習ができるケースは少ないが、実際に目の前で行なわれているデモを見るのは深く印象に残るし、担当講師に直接質問をすることもできる。ビデオ映像がオンラインで公開されることもある。
勉強会に参加したら、必ずやって欲しいことがある。質疑応答の時間に、全員の前で質問をすることだ。個別の質問は、他の人と共有できないため勉強会の価値を向上するための役に立たない。講師も思い違いをすることがあるし、質問の意味を取り違えることもある。質問内容を全体で共有できれば、他の人が間違いを指摘してくれるだろう。だから講師の間違いに気付いたら受講者は具体的な指摘をすべきだ。アンケートに「講師が間違っていた」とだけ書かれていても、ほとんど役に立たない。
「成果を得る」は、実際の仕事に応用することだ。実際の環境で応用しない限りなかなか身につくものではない。ただし、新しい技術を業務システムにいきなり応用することは難しいだろう。その場合は頭の中で考えるだけでもいいと思う。前回「プログラム言語を確実に習得する4つのステップ」で紹介したとおり、頼まれもしないのに業務システムを作るのも悪くない。
最後のステップは「人に教える」だ。学んだ知識は人に教えることで初めて本物になる。理解したつもりでも、人に説明していると自分の知識の不十分なところが分かるだろう。たとえ業務に生かしていたとしても、それは自分の環境の範囲内である。人に教え、質問を受けることで、自分が経験していない内容を説明せざるを得なくなる。こうして本当の意味で技術が身につく。
だから勉強会に参加して、自分の役に立ったと思ったら、次のステップは自分が講師になることを考えて欲しい。これはボランティアでもなんでもなくて、純粋に自分のためだ。講師のなり手は少ないので、どの勉強会でも常に講師を募集している。もっと手軽な「ライトニングトーク」という場もある。ライトニングトークは、1人あたり5分程度のプレゼンテーションを次々と披露するスタイルだ。本当は5分という限られた時間でのプレゼンテーションは、1時間のプレゼンテーションよりも難しいのだが、失敗しても受講者の時間的損失は少ないのは利点である。気軽に参加すればいい。
●講習会の受講
最後にもうひとつ。勉強会は、通常1トピックあたり1時間から2時間の枠で企画される。正直に言うと、勉強会でまとまった技術を習得するのは難しい。もし、全体を理解したいのであれば少々値は張るが、専門の教育会社によるトレーニングを受講して欲しい。
たとえば私の所属する「グローバルナレッジネットワーク」などはいかがだろう。運が良ければ(悪ければ?)不肖横山が担当させていただくことになる。
●今週のおまけ写真
趣味で写真を撮っている。今どきのカメラは、シャッターボタンを押せばそれなりの絵が撮れるので「やってみる」のハードルは低い。むしろ「理解する」方が難しいくらいだ。
次のステップとして「成果を得る」ために、同人誌販売やグループ展を行なっている。次のステップは「人に教える」だが、なかなか機会がない。