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国内外のアーティストやタレントのソーシャルメディア活用術をプロダクション出身の筆者が発信。

Troy Carterに学ぶソーシャル時代のマネージャー

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Lady Gagaのマネージャーとしてその名が知られるTroy Carter(トロイ・カーター)。Lady Gagaの成功の裏に彼の存在ありと言われる人物です。特にソーシャル分野の展開には彼の持つ戦略性を無視することは出来ないようです。インタビュー等での彼の発言を聴いていると、ソーシャル時代のアーティストマネージャーがどうあるべきかについて考えさせられます。。

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2011年に生きるアーティストはアドバンテージがある。だってThe BeatlesはFacebookページをもっていなかったし、MichaelJacksonはTwitterアカウントをもってなかったんだから。多くの人はデジタルミュージックを共食い(パッケージCDセールスを減らす存在)と見るけれど、僕はチャンスと捉えている。


先週最も売れたアルバムが4万枚そこらなのに、同じ週に6千万人がソーシャルゲームの「CityVille」をプレイし、そこにお金が使っているんだよ。今僕らには、音楽をいかに“ソーシャル化”し、“体験化”し、“価値を感じるプライシング”をしていくのかが大事になっているんだ。


最初の一文には、環境の変化をとても肯定的に捉える彼の姿勢がとても面白く表現されています。一方で二つ目の文はとても深い意味合いが含まれているように感じます。この点は後述することにして、まずは日本のアーティストマネージャーの背景にあるプロダクションやレコード会社の組織的な問題を考えてみたいと思います。

組織的な問題点

日本のプロダクション、レコード会社ではプロモーターという存在が花形的に存在していました。マスプロモーションの時代には、如何にテレビ、ラジオ、雑誌といったメディアで「露出」を稼ぐかというポイントが大事だったので、メディアにアーティストを売り込むプロモーターが非常に重要でした。


Webというメディアがその存在感を増してくると、プロモーターにWeb担当が登場しましたが、やはりプロモーターとしての役割はWebでの「露出」を獲得することがメインでした。


ただ、「露出」から「コミュニケーション」へ価値が移行するソーシャルメディア時代には、プロモーターのWeb担当というポジションは機能しずらくなりました。両者は本質的に異なるものです。コミュニケーションデザインといったポジションが設置される流れもあるようですが、ソーシャルメディア周りの展開は担当者次第、つまり属人的なものとなりがちです。ソーシャルの肌感覚を持つ担当者が自分の感覚で進めていくという状況です。


今、必要なのはポジションとしてコミュニケーションデザインと、その担当者の育成です。また、担当者はよりアーティストに近い所で仕事が出来るようにする必要があります。


プロモーターはアーティストの音源、写真素材、インタビュー記事などをマネージャーからもらってメディアへの露出を図りますが、どの素材を出していいかのジャッジは、マネージャーに任されています。だた、ソーシャルを通じたコミュニケーション施策においては、そのコミュニケーションのネタ自体どんなものが良いのか、コミュニケーション施策を担当する者がジャッジすべきだと思います。つまりは、マネージメントに限りなく近い立場でコミュニケーション戦略を行っていく「デジタル戦略マネージャー」的なポジションを担う人が必要なのです。これはTroy Carterに近いイメージと言えます。


アーティストと日々向き合っていく本来のマネージャーは人間力が求められますし、そういったスペシャリティを持っているマネージャーも必要です。また一方で、コミュニケーション戦略にスペシャリティをもったマネージャーが存在していいと思います。アーティストのオフショットや、本当に日常的なネタ等をコンテンツとしてコミュニケーションしていくような施策の実施は、よりアーティストに近い立場でないと難しいです。


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ソーシャル活用の次のフェーズ

Troy Carterは、『Backplane』という新たなコミュニティプラットフォームを立ち上げると公言しています。Appleが音楽ソーシャルネットワーク『Ping』をリリースする際に、彼はJobsと話をしたようで、その際に彼の中で新しいプラットフォームのアイデアが思いついたそうです。

彼は「Backplane」について“We needed a more concentrated base.”と言っています。このソーシャルプラットフォームを活用してさらに濃いコミュニケーションを実現し、“収益化”へ繋げるところまで持っていきたいと考えているようです。彼は次のようにも言っています。

ソーシャルメディア上でアーティストのファンが100万人いてもそれと同数のCDが売れる訳ではないし、それと同数のチケットが売れる訳ではない。もっと深いところで繋がれるようなコミュニケーションのプラットフォームを作る。

これを「やっぱりソーシャルじゃお金儲けが難しかったんでしょ」と解釈するのは本質からズレているでしょう。アーティストのビジネスは、ライブやイベントといった“場”のビジネスがベースとなっていきます。そこに誘導する為にも今まで以上に深いロイヤリティを形成を実現するようなソーシャルプラットフォームを彼は作りたいと考えているようです。

そしてアーティストのビジネスは、一層プレミアム化していくような気がしています。100万人のファンに向けてではなく、100人のファンに提供するプレミアムな体験、プレアムなコミュニケーション、プレミアムなライブ体験、プレミアムなグッズ販売といった方向に向かうのではないでしょうか。

音楽というコンテンツ自体はソーシャル化してきます。それはつまりフリー化していくことと表裏一体でもあります。一方でオンライン、オフライン問わず、ライブやイベントといった“場”の提供による一層の体験化が進んでいくでしょう。そしてその体験自体がプレミアム化されていくことで、ファンが価値を感じるプライシングが実現されていく。まさに冒頭に挙げた彼の言葉の二文目はこのように解釈出来ると思うのです。


Troy Carterの描くシナリオはアーティストのソーシャル活用を次のフェーズに導いてくれるでしょう。ただ、日本ではまず第一のフェーズとして、短期的な収益を求めずコミュニケーションプラットフォームとしてソーシャルを活用すること。そして“場”のビジネスへ誘導することがまずは先決です。その先に、より深い関係性構築やプレミアムな音楽体験や購買体験といった収益モデルの構築へ向かうのではないかと考えています。

今回はLady Gagaのデジタル戦略の参謀であるTroy Carterからアーティストマネージャー像とアーティストビジネスを考えてみました。起業家でもある彼が立ち上げる「Backplane」がどういったサービスとして登場するのか非常に楽しみです。


 

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