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投資家・コンサルタントとしてこれまで経営者と触れあった体験のうち“会社を危険な状態”にしてしまった経営管理方法や経営者の癖などを紹介していきます。在庫問題だと思ったら評価制度や社長の考え方が問題だったなど、実際の話を書いていきます。経営者以外の方にもヒントとなると思います。ぜひ読んでみてください。

事業計画はベクトルで考えろ

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こんにちは、To be Managementの山方です。

3月決算の会社では事業計画作成の大詰めに入っている時期だと思います。特に中小企業円滑化法を活用し条件変更をしている会社では"経営改善計画"となるため真剣に取り組んでいられるかと思います(円滑化法活用後1年以内に経営改善計画の提出が必要なため)。

世の中には事業計画作成について書かれた本やセミナーなど数多くのコンテンツがあります。実際、「今更必要?」と思いましたが、フォーマットを埋めただけのものやとても"計画"とは思えないものが多くみられるので(事業計画を見る側の立場に立ち)作成について考えを述べたいと思います。

自社の事業計画書(昨年や現在作成中の計画書)を見てもらいたのですが、その前に、タイトルについて説明します。タイトルの「事業計画はベクトルで考えろ」の"ベクトル"とは、そう、数学で習ったアレです。方向と力(量)を持った矢印です。なぜ、これが事業計画作成の考え方となるのか?と疑問だと思いますが、最後まで読んで頂けばわかるようにお話ししますので最後までお付き合いください。

【悪い事業計画とは】
ベクトルの話しをする前に悪い事業計画例についてお話しします。自社の事業計画書(旧版もしくは現在作成中)と比べながら読んでください。自社の事業計画書は以下のようになっていませんか?なっていたら"悪い事業計画書"です。

・事業計画が数値のみで予算との区別がつかない
・数値の根拠が不明である
・経営方針や想いのみが散文的につづられているだけ

エクセルで作られた売上・利益・費用項目が並んだ表のみ、○○という顧客層向けに××万円販売というスローガンのみ、世界を豊かにするために頑張るという作文のみ、などなど。今でも結構見られる事業計画書です。ちなみに、10年近く前だと上場企業でもこの手の事業計画書を作成している会社がありました。投資信託の運用業務に携わっていたとき新興市場に上場している会社の経営企画担当役員から「自社の事業計画です!」とこんな細かいところまでと驚くほどの数値が載せてあるエクセルシート(紙に印刷している)を渡されたことがあります(細かい数字だらけで一瞬眩暈がしました)。説明をしてもらうと数字の細かさとは反対に"数字が出てきた根拠"や"どうやって達成するか"については、おおざっぱかつしどろもどろでした(こんなに細かい数値を出しているのだから、きちんと考えられていると外部から見えると考えたのでしょうか)。今は、上場企業は外部のアナリストなどからいろいろと言われるのでこんなことはないと思いますが。

蛇足ですが、悪い事業計画より問題なのが外部の第三者(コンサルタント)に事業計画を丸投げすることです。外部のコンサルタントと一緒に事業計画を作成することは作成ノウハウを得られるなどメリットがありお勧めですが、丸投げは絶対に駄目です。ビジネスそのものだけでなく顧客やパートナー、自社の内情(人やノウハウ)など詳しく知らない第三者が作成する計画に意味はありません。銀行などに見せるために見栄え良く作成してもらえると考えているのでしょうが、残念ながら中身がないことはバレバレで印象が良くありません(経営者が自社の事業計画を他人に任せるのは「自分に経営能力がありません」と言っていることと同じです)。それにしても、自分の良く知らないビジネスについて事業計画を作成すると言える方はすごいです(それも高い値段ではなく)。

【事業計画とは?】
そもそも事業計画とは何でしょか?何のために作成されるのでしょうか?辞書で調べたところ事業計画では意味が出ていませんでした。そこで、"事業"と"計画"にわけて再度調べてみました。

事業:生産・営利などの一定の目的を持って継続的に、組織・会社・商店などを経営する仕事。
計画:ある事を行うために、あらかじめ方法や順序などを考えること。また、その考えの内容。もくろみ。
出所:大辞泉(Yahoo)

上記から事業計画とは、「経営上の目的を達成するための方法や順序、考え方を示したもの」と定義されると思います。つまり、事業計画とは"目標を達成するために作成されるもの"です。そのために"具体化された目標"があり、その"目標を到達するための方法や手順""選択した方法や手順が妥当であると考えた理由"を満たした計画書のことです。
目標と現状.png

【ベクトルと事業計画のつながり】
事業計画の悪い例などで長くなりましたが、ここからベクトルと事業計画のつながりを説明したいと思います。ベクトルは、A地点(始点)からB地点(終点)までの方向と力(量)を表します。事業計画も同様に現状(始点)から目標(終点)までの方向性と行動(量)を表しています。似ていると思いませんか?
ベクトルと事業計画の比較.png

ではベクトルと同じように事業計画を考えて行きましょう。ベクトルは方向と力(量)が必要です。よって、まずは(1)方向を決め、次に(2)力(量)を決めます。
(1)    方向を決める
方向を決めるには、始点と終点が必要となります。事業計画も同様に考えます。始点は、"現時点(現状)"ですね。終点が"目標"になります。
ベクトルと同様に事業計画も、"目標が具体的かつ明確にならないと方向が決まらない"ということです。
目標を明確化する.png

(2)    力(量)を決める
方向が決まると次にどれだけの力(量)が必要かを考えます。
具体的な例として、東京(始点)から300KM離れた仙台まで行く計画を立てるとします。その際の移動手段は、徒歩(時速5KM)、自転車(時速20KM)、自動車(時速100KM)、の3つとします。もし徒歩で仙台に行くとすればどれだけの時間(量)がかかるでしょうか?300KM÷時速5KM=60時間が必要となります。もし徒歩で30時間しか歩かなければ、目標には到達できません。
力のイメージ.png

次にここで使える時間は3時間だとします。そうすると、各手段のすすむ距離(量)は徒歩15KM(5KM×3時間)、自転車60KM(20KM×3時間)、自動車300KM(100KM×3時間)となります。よって、使える時間が3時間と制約をつければ自動車が選択されます。
目標と現状のイメージ図.png

つまり、"現状から目標に到達するには適切な手段と十分な行動量が必要となる"ということです。

以上の説明で事業計画はベクトルで考えるということが伝わりましたか?ここで簡単な例を出してみたいと思います。

【例】
売上高2億円、利益1億円の会社があるとします。この会社の費用は全て固定費です(これ以上は費用が増えないと仮定)。この会社では来期目標利益を3億円と設定しました。ではどのように事業計画を考えていけば良いでしょうか?

まずは方向を決めます。ここでは始点が1億円、終点が3億円と設定されていますので、利益3億円に向かうことが方向となります。
次に、力(量)ですが、終点(3億円)-始点(1億円)=2億円が埋めるために必要な量となります。では、どのような手段をどれだけ行えば目標利益3億円が達成できるでしょうか?
利益を増やすには、次の3つの手段があります。
(1)売上を増やす
(2)費用を減らす
(3)双方の組み合わせ
利益を2億円増やす.png

制約条件(市場が伸びない、シェアが増えない、新商品は計画されていない、費用はこれ以上削れない)がなければ、売上高を4億円にするために顧客数を倍に伸ばす(事業計画なので顧客数を倍に伸ばすには何をどれだけ行うのかについての説明も必要)、新商品を出すなどが考えられます(費用を半分にして売上高を3.5億円にするための施策でもOK)。

また、費用をこれ以上減らすことが不可能ならば、(2)、(3)という手段を除き(図の下半分は検討しない)売上を伸ばす手段とそのために必要な行動量(訪問顧客数を倍に伸ばす、取扱店舗を倍にする、出店数を増やすなど)を検討することになります。

最後に、上記を読まれた結果、事業計画は"数値作成ではない"ことを理解されたら幸いです。







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