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企業ITの都市計画的デザイン ~ 伊達政宗の仙台に学ぶインターネット時代からソーシャル時代への変化

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青葉山.png 少し前に仙台に行っていました。仙台は関が原の戦い(1600年)の後に伊達政宗によって開かれた都市です。JR仙台駅から仙台城址までは遠くないと以前から聞いていたので、この日は歩いてみることにしました。雨でなければ自転車で訪れるつもりだったのですが、徒歩で正解です。仙台城址に続く青葉山の坂道は「自転車だったら登れなかったな」と思わせる急勾配でした。この"急勾配"は仙台の都市計画を紐解くキーワードでもあります。

 「重視すべき情報」が変化すれば都市の姿も変化するのだと、そう思わせてくれるのが仙台の歴史です。青葉山に築かれた仙台城と、広瀬川を隔てて現在のJR仙台駅側に広がる城下町で構成される仙台の都市計画は、2つのフェーズで変化しています。第1フェーズは初代仙台藩主伊達政宗の時代で、この時期の仙台城は堅牢な山城です。関が原の戦いの後とはいえ、まだ戦国時代ですから外敵の侵攻が想定される状況です。このとき政宗にとって「重視すべき情報」といえば、外敵がどのような陣形で攻めてくるかといった戦術的なものになります。ですから、政宗が政務を執り行う場所は、遠くまで眺望できて守備にも有利な山頂の本丸でした。

 戦国時代から太平の世へと移行すると、仙台の姿が変わります。政宗の子である第二代藩主伊達忠宗は、より城下町に近い平地(現在の東北大学川内キャンパス付近)に仙台城二の丸を造営し、そこを本拠地とするようになります。平和な時代になると藩主にとっての「重視すべき情報」は、城下町で起きる様々な出来事など内政的なことにシフトしていきます。それらの情報は、伝令役が青葉山の"急勾配"を駆け上ることで藩主に届けられるのですが、これは大変な坂道ですから、なかなかリアルタイムには伝わりません。ですから、情報のリアルタイム性を求め、第二代以降の藩主は平地に築かれた二の丸で政務を執りました。あまり有名ではありませんが、こうして藩の運営基盤を平和な時世に合わせて整備した二代忠宗は、守成の名君と称えられているそうです。仙台の変遷を見ていると、戦国には戦国の、太平には太平の、それぞれの時代に合った都市の姿があるといえそうです。

 さて、時代が変われば「重視すべき情報」も変化するべきだというのは、現代の企業にもあてはまる話です。そして、それに合わせて企業ITのデザインも変化するはずです。もし、時代の変化に追従できていないのであれば、その企業には何かしらの非効率が生じているはずです。仙台にあてはめて考えると、太平の世になったにもかかわらず藩主は堅牢な山城の頂上にいて、そのために城下町の様々な情報をリアルタイムに把握できなくなっているような状態です。

仙台の都市計画.png

 例えば、「わが社のどの商品がどれだけ売上/利益に貢献しているのか?」という分析を実施している企業は多いのですが、こういった分析の対象となる情報システムも時代に合わせて変化させていくべきです。一例ですが、小売業や卸売業などモノを売る業界においては、2010年くらいを境に分析対象(=重視すべき情報)が変化していると考えられます。

  • インターネット時代(2000年~2010年)
    それまでは実店舗のみでしたが、この時代以降に販売チャネルが広がりました。単純なインターネット通販だけでなく、オンラインモール経由販売など、複数チャネルが発生した時代です。しかし、実店舗のみの時代と異なりチャネル毎や商品毎で間接原価は大きく異なります。そのため、原価配賦後のチャネル別や商品別の貢献利益/営業利益の正確な数値が求められます。
    ⇒ この場合の分析対象は、会計システム内のデータが適しています。

  • ソーシャル時代(2011年~)
    TwitterやFacebookなどのSNSが登場して以降は、消費者の口コミの伝播速度が劇的に上がっています。何かの口コミを起点に、急激に売れるようになったり、また急に売れ行きが振るわなくなったりということが起きるようになりました。こうなってくると分析対象は月次販売データではダメで、当日や時間ごとの販売データが必要となります。
    ⇒ この場合の分析対象は、販売管理システム内に格納されるリアルタイムのデータが適しています。

 しかし、実際は2000年代くらいから分析対象を変化させていない企業が意外と多いようです。基本的に多くのデータは会計システムに集積するようになっているので、「会計システムを分析すれば良いでしょう?」という考えも理解できます。ただ、ソーシャル時代の昨今においては、よりリアルタイムな分析が重要になっていて、そうなると月次締めの会計システムではなく、データの生成元に近い販売管理システムを分析対象とするのが正解といえるケースが多いようです。


 仙台の話に戻りますが、仙台城址の頂上から城下町を見下ろす伊達政宗騎馬像を、本当は晴れた日に写真に収めたかったのですが、暗雲の雨の日のシルエットにもそれはそれで迫力があって、むしろ満足でした。

政宗.JPG

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