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ベンチャー企業の成長について、現場で思うこと

外だけを見続ける努力

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ビジネスは顧客の創造であり、企業の存在意義は顧客に対して提供する価値に由来する。社会に新しい価値を提供するベンチャー企業の視線は、常に会社の外に向いている必要があり、ビジネスの種は会社の外にしかない。社内に何もないうちは、視線は外にだけ向いているのだが、会社が成長していく中で、内向きな視線が増えていく。

社長の個人商店から組織的な運営に移行していく過程では、内部に目がいくのは致し方ないことだが、外を見なくなることに対する警戒感は保持しておく必要がある。放っておくと、外を見ないどころか、内側の都合が優先し、顧客不在に陥る。会社の常識が社会の非常識になり、企業の存立を危うくする不祥事を引き起こすまで気づかない。

身内の理屈が優先していく過程では、共通の現象が起きる。例えば、会議などで出る「私は初耳だ」的な発言である。議論の対象であることの是非よりは、自分に事前相談がないことに対する不満の表明であり、自らの権威の主張である。決定事項をきちんと実行してもらうために有効な「根回し」の手法を逆手に取っただけであり、顧客に提供する価値よりも自分の社内権限を重視する姿勢である。

また、社風も出来上がっていないうちから、これがオレ流と言わんばかりに正当化に走る例もある。合理的な説明ができない逃げ口上に「それでもやるのが、我が社流なのだ」という論調である。実績のないベンチャー企業こそ、基本をおろそかにしてはいけない。理屈で説明できないことにお金を払ってくれるお客さまはいない。

さらに、これが会社のためになる、という会社至上主義も散見する。会社の存在基盤は顧客にあるので、会社のための先に顧客に提供する価値がなければ、単なる会社のエゴということになる。会社の利益のために不法な行為に走るのは、会社のことしか考えないために起こることである。

会社が成長していけば、自然に内向きな力は増していく。結束力という言葉は美しいが、顧客を無視した自己防衛に走った場合、社会から大きな制裁が下されることは、火を見るより明らかである。心地よい内向きな理屈に惑わされることなく、常に外だけを見続ける姿勢こそが、成長を継続させる唯一の方法だと思っている。

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