「うちの社員にはこのモバイルのUIはそのままは使えない」?
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クラウドのSaaSとの組み合わせで、モバイルの企業活用はかなり加速感がでてきたように思えます。しかもSaaSですから標準的なモバイルアプリが提供されていることも珍しくありません。そんな中で、「うちの社員にはこのモバイルのUIはそのままは使えない」とか、「PCでできたことがモバイルでもできないと使えない」といった言葉をIT部門の方から時々お聞きするようになりました。
確かにモバイルという小さな画面の制約、UIとしての枠組みの考え方の違い、モバイルUI独特の操作性や機能があることは、今まで使ってきたPC上や、Webブラウザ上の業務の使い勝手との違いから、そういった感覚を生み出すのかもしれません。当然、PCやWebブラウザのアプリケーションで実装されている機能をすべては実現はできないでしょう。
一方、モバイルが業務に与える価値として、外出しているその場所で、近くのお客様や仕事の現場にかかわる情報を、片手で即座に確認して最新の情報で仕事にあたるとか、そこで即座に最低限の関連情報を入力するといったことが実現できてきます。片手で小さな画面で、これらを効率的に実現できる仕組みとして、地図と現在位置といったロケーションを活用したUI、指でタップすることでフィールドの選択肢や関連情報を表示するようなUI、プッシュ的に更新情報を通知する時系列のタイムラインのようなUIなどは如何にもモバイル的です。
また、外出時にいろいろな環境で業務アプリを快適に効率よく操作できるようにするということは、ある意味、Webブラウザ上の業務で実現していたことを全てモバイルUIで実現するのではなく、シンプルに必要なものだけに絞り込み、その上でモバイルUI的なものを活用して快適で効率的な環境を提供することになるでしょう。仮に、Webブラウザでのアプリケーションを、そのままモバイル上のブラウザで使えるようにしても、そこには上でふれたようなモバイルUIの特長である、ロケーション、タップ、プッシュ的なものは生かしにくくモバイルの価値が半減してしまうと思われます。必要なものだけに絞り込んでモバイルのアプリ化をする、という段階を経て、モバイルアプリとしてこれらの価値を生かせることになるでしょう。モバイルの強みを引き出すために必要なことは、開発者とユーザーがモバイルUIの枠組みと制約を受け入れて、それに慣れて使いこなすということがどうしても必要になってきます。
ここ20年を振り返ってみると、こういったUIにかかわる技術の枠組みの変更はすでに二度ぐらいあったかと思います。メインフレーム時代には、UIは紙芝居のようにメニュー画面を切り替えることで業務の操作をしました。それがクライアント・サーバ時代になり、UIはウィンドウを基本として、その中で対象を選択してメニューやクリックなどでコマンドを発行して操作する枠組みに大きく様変わりしました。Web時代に入り、ウィンドウ時代の要素はある程度うけつがれつつもブラウザの中でHTML文書をリンクや更新ボタンといった機能で遷移するようになりました。
これらのUIの枠組みの変化のたびに、冒頭のような、「うちの社員にはこの新しいUIはそのままは使えない」とか、「前にできたことができないと使えない」といった声をよくきいたものです。ある場合では、前の技術のUIを、新しいUI上にも同じように真似て作るという方法もよく目にしました。ただし、全く同じものはUIの枠組みの違いから作れないので、似たようなもの、を作ることになります。結果は開発にもお金がかかり、ユーザーにも前と同じでない部分があると不満を残します。そして新しい技術のUIの価値を引き出せずに終わるわけです。メインフレーム風のメニューの紙芝居のPC上のUI、ウィンドウを強く意識してWebブラウザ上で同じように実現しようとしているUI。いまでもそれらを見る機会がありますが、何か、新しい技術を使いこなしていない、拒否しているような感じさえうけます。
新しいUIの枠組みを採用して、制約を受け入れつつも、その強みを引き出すことは、開発者、ユーザーにとっても乗換えコストにはなります。モバイルにも同じことが言えますが、過去のUI技術の変化の時とは、ユーザーに大きな違いがあるといえるでしょう。コンシューマライゼーションの流れです。すでに企業のモバイル利用に大きく先駆けて、若い世代はもちろんのこと、中高年でもスマートフォンを使いこなしている人が急激に増えています。そこで多用されているアプリは、多くがたくさんのユーザの声をもとに、モバイルUIの枠組みをうまく活用し、制約を受け入れ、強みを引き出しているものではないでしょうか。
スマートフォンの浸透のすさまじさは、平均的な社会人のモバイルUIに対するリテラシーを大きく高めているでしょう。企業システムのモバイル化でもそれを逆手にとって、一気に過去のアプリケーションからは飛躍した、使いやすい、強みが生きるアプリにする大きなチャンスだと思います。メインフレーム時代の遺産のようなメニューの切り替えのUI、PCではできることをなんとかモバイルに詰め込んだUIの業務アプリはもうモバイルでは見たくないものです。
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