呟きによる新しい企業内コラボレーション
個人として、そして企業の社員として、ここ数カ月クラウドの上での呟き、Twitter的なものに浸ってきました。90年代のグループウェアによる情報共有でもコミニケーション、コラボレーションの変化と会社へのインパクトに感動してきた一人なのですが、今回の呟きツールの出現は、あの時と同じか、それ以上のインパクトを正直感じています。そんなグループウェア時代と比較した呟きによるコミニケーション、コラボレーションについてちょっと考えてみました。
インターネット上での呟きであるTwitter、そして最近、会社内でも呟きができるクラウドでのマイクロブログのサービスが提供され始めています。これらに共通する、今までのグループウェアのメールや会議室などと違うポイントは、いろいろなことが言われていますが、私なりに以下の3つにまとめてみました。
一つ目は、なんといっても情報発信の敷居の低さでしょう。Twitterの140文字の制限、またはアプリケーションの特性から、短いメッセージが誘導されて、柔らかい、固まる前のアイデアか、その断片が発信されるようになっています。グループウェアではメールや会議室という形式が、なんとわなしに、ある程度、論旨の明確なメッセージに仕向けていました。
敷居の低さは、大量のアイデア、大量の対話へとつながっていくのは自然なことでしょう。二つ目として、そこで量によって思ってもいない対話が生まれ、それらは新たなアイデアにもつながると思います。
また過去のグループウェアと決定的に違うと言われるのが、非対称のコミニティーがあげられています。グループウェアでは、事前に管理者などが決めたクローズのグループでの対話が前提でした。さもなくば全く区切らないオープンなものでした。呟きはタイムラインで、個人別の世界をつくり、しかも相手は重なりながらも自分と異なるタイムラインの世界をつくる。3つ目として、この非対称性により、対話がある人のタイムラインから次の人のタイムラインを介して伝わっていくことで、コミニティーをまたがったコミニケーションが発生していきます。
これら三つの特性から、企業の中で何か起こるか、自分の社内経験からも考えてみました。昔のアナロジーを使うとすれば、企業の中で、大部屋文化が復活する、そして同期の桜や同じ事業所出身といった、何かを共有するコミニティーがより盛んに多様になる、と言えるのではないかと思っています。
グループウェアでは小規模ないしは完全にオープンな会議室のような仕組みになりがちでした。呟きツールは、これを今一度、大部屋文化にしてくれることでしょう。気になる会話には近寄っていって聞いたり割り込んだりする。自分に関係ないと思えばその輪には入らないが、だれかが呼んでくれたりすれば、その輪の中に自主的に入っていける。タイムラインによって、そんなゆるやか関係がネット上で生まれると思います。その中では、マネージメントの呟きも、一社員の呟きも対等に、かつスピードをもって伝えられるでしょう。
またグループウェアでは、コミニティーの形成を、会議室の管理者などにゆだね、誰を入れるか入れないかは、なかなか個人が決定権をもてませんでした。これに対して自分で入っていくイメージでコミニティーに参加し、さらに非対称の性質から、知らない間に知っている人を介して、自分が属していない違うコミニティーの話が入ってくることが起きるでしょう。当然コミニティーは、広がりを見せたり、違うつながりで新しいコミニティーの発生も起こりえるでしょう。
大部屋文化の復活、コミニティーの多様化は、呟きツールによって、会社のコミニケーションとコラボレーションに関して、その規模、スピード、そしてそれらの変化に影響を与えると思います。これらは、イノベーションの源泉といわれている、偶然から新たなアイデアの創造をうながすセレンディピティを強化する場になりえると考えてもいいかもしれません。
ところで社外のTwitterのような呟きツールと違った、社内におけるユニークな新しい呟きツールの特性はどこにあるでしょう。これはたまたま私の使っているツール(Salesforce.comのChatter)の特性だからかもしれませんが、アプリケーションやデータが呟く機能を持っていることによって、いろいろな発展があり得るのではと思っています。
今まで企業内の報告、レポートなどは、あくまで情報の発信側にゆだねられていました。これを報告せよ、こういう条件の情報をレポートせよ。これらは今まで、情報発信する社員の振る舞いを要求するもので、場合によってはアプリケーションの一部としてレポートを定期的に生成するような開発になったりもしていました。
しかし呟きツールで、受け取り手が、能動的に知りたいデータに対して呟き設定をしておくと、その情報が変化したときにツールが受け取り手に自動的に呟く。こんな仕掛けができ始めました。営業部長であれば、自分の部下の営業案件の中で、成約の一歩手前に入った商談を部下に報告するように指示していたり、一覧のレポートを求めたりしていました。これがSalesforceのChatterでは、CRMの特定のデータなどに呟き設定を受け手がすることで、自動的かつリアルタイムにその変化を知ることができます。
やや大袈裟かもしれませんが、アプリケーションの、どちらかというと細かな報告などの機能開発を少なくしていく、さらにもっと自由に知りたいものをアプリケーションの追加機能開発なしに通知をうけることができる、という展開を見せるのでは思っています。
この分野はまさに今、試行しながらいろいろなものが周辺ツールとして開発され、新たな社内呟きツールの成長が始まろうとしています。データが呟くことで、アプリケーションの機能の在り方を変えていく。そんな進化がクラウドの漸進的進化の一部としてみられそうな気配です。