J-SaaSは成功してほしいけど
経済産業省のJ-SaaSがこの3月31日から16社24種類のアプリケーション、ユーザー月額2,000円からのサービスで運用が始まったようです。
以前、オルタナブロガー林さんも紹介しているので詳細は省きますが、中小企業を対象に、今年度は1万社で来年度までに50万社が利用できる基盤にするとのことです。中小企業のIT活用とSaaSの普及促進と、志は共感できますので、日本人としてはぜひ成功してほしい政策ではあります。が、この50万社を聞いて、あの世界最大級のSalesforceが5万社くらいですから何か変だなと思ってちょっと調べてみました。
政策ですので経済産業省のWebページに事業の大枠が載っています。技術的な観点ですが、まず構築されるインフラはマルチテナントでないことが明記されています。かつ希望するアプリケーション・ベンダーには別々にサーバーを設置。さらにインフラ基盤としては、アプリケーション・ベンダーの希望によって、OS、開発言語、DBMSなど制限を設けず作ること、ただし予算の範囲内(平成20年度予算でインフラが約11億円)でとなっています。
あとはアプリケーション・ベンダーが自らシステム構築するオプションもあります。SaaSは規模の経済が効くようにマルチテナントや少なくとも各種標準化が必要な方向性だと思いますが、このJ-SaaSの技術的枠組みはこういった経済的観点はまったく考えられていないようです。
さらに事業内容を読みすすむと、J-SaaSでは3つのアプリケーションの種類が想定されているそうです。1つ目はWebアプリケーション型、2つ目はクライアントをダウンロードするクライアント・サーバー型、3つ目はサーバーはソフトの有効期限だけを確認する純粋なクライアントソフトのクライアント認証型です。こうなるとまさにダウンロードのポータルサイトですね。これなら50万社の利用も可能かもしれませんが、これが増えたら世間ではSaaSとは呼ばなくなるでしょう。
中小企業のIT化は、IT化による生産性向上の考え方やリテラシーの課題によるところが多いという意見も多々あります。そのための政策が本当にSaaSなのかどうかもう一度考え直すのも遠回りでないように思えました。また日本のアプリケーション・ベンダーのSaaS化の促進が目的であれば、OSから何から自由を許して、アプリケーションのダウンロードまで認めるのが施策として効果的かどうかも考えどころです。
普通のSaaSから考えると膨大なユーザー数、技術的にはSaaS以外も含むゆるさ。何がこの政策にとっての成功指標かわかりませんが、このままでは何でも入ってくる入れ物になりそうで、またこの政策が終わった後の事業継続での経済性などが心配です。公開された情報をベースにはこれ以上の評価は難しいですが、政策の運用で何が狙いを明確にして、効果がきっちり出るように進んでもらいたいものです。