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人はみな裸で同じようにこの世の中に生まれてくる:『資産フライト』感想

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私がお世話になっている、元光文社ペーパーバックス編集長で、現在は独立してジャーナリストとして活躍されている山田順さんから、新著『資産フライト』を献本いただきました。山田さんは前著『出版大崩壊』で、ご自分の経験や綿密な取材をもとに、現在の出版業界や電子書籍の行方について、警鐘を鳴らす内容の本を書いてらっしゃった方です。

資産フライトというのは、資産を海外に移すことで、現在は富裕層だけでなく、一般のサラリーマンやOLまで資産フライトをし始めているとのこと。私は個人的にはほとんど金融資産を持ってないし、一般の投資には興味がなく、投資するなら自己投資が一番だと思っているので、あまり興味のあるテーマではなかったのですが、読んでみたら、単なる海外投資のすすめではなく、そのような資産フライトが起きる日本の現状について警鐘を鳴らす内容でした。

ガラパゴス化している日本の金融界や、何年勉強しても英語ができず、本当に必要なはずの教育がされていない教育界の現状などの、現在の日本の問題点と、そういう状況の中で今後私たちがどうしていけばいいのかが、綿密な調査と取材、山田さん自身の体験からわかりやすく語られていました。

今後、大震災による不況や増税路線により資産フライトはまずます加速化し、それに対する政府への規制も強化されるだろうとうことですが、本当の解決法は規制の強化ではなく、日本を資産フライトなどしなくてもすむ住みやすい国、魅力のある国にすることだという指摘には共感しました。

この本の中で一番印象に残った話は、山田さんが家族で上海へ行ったときに、貧しい少年からお金をせがまれ、その子の頭をなでてお金を渡した山田さんに、娘さんが「パパ、なんでそんなことをするの? あんな子を撫でた手で私をさわったらイヤだからね」と怒ったことに対して、山田さんが「あんな汚いかっこうをしているけど、あの子も生まれたときは汚くなかったんだよ。赤ちゃんはみんな裸で、同じようにこの世界に生まれてくるんだ。そのことを考えなさい」と叱ったというエピソードです。この世界を本当によくするのは、政治や政策ではなく、見た目や文化などの違いにとらわれず、同じ裸で生まれてきた人間として助け合うような心の持ち方なのだという山田さんの話には説得力がありました。今後の日本のあり方、自分の生き方を考える上で、とても参考になる本だと思います。

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