社内プロジェティスタはイノベーションになるのか【中堅崩壊】
(このエントリは「プロジェティスタ、やってます【中堅崩壊】」の続きです)
「中堅崩壊-ミドルマネジメント再生への提言」の著者である野田稔氏は、独立でも転職でもなく、大企業に所属しながらプロジェティスタ的な働き方をすることを推奨しています。
会社に籍を置きながら、自立的に働くのだ。もちろん、そのためには、経営者やシニアが覚悟を決めて、制度・風土を変えていかなければならない。同時にミドル自身も、従来の”出世=ポスト”というこだわりを捨ててほしい。
企業組織をプロジェクトの集合体のような「プロジェクト主体組織」にしていく、わかりやすく言えば、企業を中小企業の寄り合い所帯のように変えていくことを推奨したい。
著者は、プレーイングマネージャーが日本のミドルの主役であるとして、そこに日本版プロジェティスタ、すなわち社内プロジェティスタの萌芽を見ています。
彼らは、もともと何らかのスペシャリストとして腕を磨き、その後に多能工として技術領域を拡大する。その上でプロジェクトリーダー経験を積み、マネジメント能力を身につけた人材だ。いわば、T字型人材だ。専門性という縦軸に、マネジメント力の横軸が加わった能力体系を有している。二本の専門性を持つπ型人材はさらに望ましい。
それでは、社内プロジェティスタはどのような仕事の仕方をするのでしょうか。
プロジェティスタというのは、ポストについていないプロフェッショナルだ。現状の企業風土では、組織長にアサインされていない専門家は、一段下に見られることが多い。すると、第一線級の人材を社内プロジェティスタに充てたいにもかかわらず、見かけ上、弱者となるために、そのポジションにつくことにモチベーションがわかない。社内プロジェティスタへの社内認知も高まらず、プロジェクト型組織にはなっていかない。そのため、当初社内プロジェティスタのステータスを人為的にも高める必要がある。
(略)
重要なのは社内でロールモデルをつくること、伝説をつくることだ。日本の企業は、社内にスターをつくりたがらない傾向があるが、ことプロジェティスタに関してはスターをつくっていかなければいけないだろう。
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さて、彼らの働き方をイメージしてみよう。
まず、自らプロジェクトを発案する。プロジェクトの内容はさまざまだ。新事業開発や新製品開発であったり、新しいチャネル開発、はたまた新手の広告宣伝手法の発案でもいい。あるいは組織改革や情報システムの改善といった改革プロジェクトもあり得る。何であれ、何かを「企てること」から始まる。
もちろん、社内のどこかの部署から、プロジェクトのリーダーとしてお呼びがかかることもある。そのプロジェクトにアサインされると、その部署に張り付いてプロジェクトリーディングを行う。それぞれのプロジェティスタのプロフィールがイントラネットに掲載されることにより、社員は自社にどのようなプロジェティスタがいるか把握できる。これまでの業務実績やプロジェクトリーディングの実績、得意分野などにメッセージを添える。メッセージは各人の仕事に対する姿勢などを示すことになろう。それらの情報が社内のイントラネットで公表されていて、各部署の発注者は、そのデータを見て、どのプロジェティスタに依頼するかを決めることができるのだ。
そう、彼らは社内の有名人だ。高度なプロフェッショナルとして認知される。何かを企ててプロジェクトをリードすること、もしくは人の企てたプロジェクトを成功させることを本務とする存在だ。
「プロジェティスタは格好いい」-そうした伝説をつくっていくことで、企業風土が変わる。
なかなか大胆な提言です。これを実現するためには、ミドル本人だけでなく、会社のトップや同僚も変わらなくてはいけません。人事評価制度も含めて、大きな改革が必要です。
私は、社内プロジェティスタが絶対無理とは言いませんが、これができる企業は少ないだろうと考えます。
著者は新卒で野村総合研究所に入社し、リクルートを経て、現在は自分で立ち上げた会社の代表取締役という経歴です。野村総合研究所はコンサルタントとして目立たなければ生き残れないと思いますし、リクルートは社員に当然のこととして経営者感覚が求められる独特の社風の企業です。どちらも日本の一般的な大企業とは大きく異なるように思われます。
著者も言っているように、日本の企業は社内にスターをつくることに消極的です。出る杭は打たれるです。
例えば、このオルタナティブブログには百数十名のブロガーがいますが、私のような中小企業の経営者や個人事業主が多いです。社員がブログを書くことについてきちんとルール化されている一部の外資系IT企業やコンサルティング会社を除くと、大企業の社員で会社名を出して書いているブロガーはほとんどいません。組織の長ではない社内プロジェティスタをスターにして、ロールモデルとして周りがあこがれるように持って行くことは、本人も周りもかなり難しいのではないでしょうか。
仮に企業の改革ができて、社内プロジェティスタが成功したとしても、数年後に行き詰まりを感じて独立・転職してしまう可能性が高いのではないかと考えます。
社内プロジェティスタが実現できるかは別にして、「中堅崩壊-ミドルマネジメント再生への提言」は中身の濃いマネージメントの本です。よろしければ、ご一読ください。
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