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紛争やチェルノブイリとは全く別の顔を持つ多数の天才的IT技術者を輩出したIT大国、ウクライナの真実の姿に迫る。

隠れたIT大国 ウクライナの実像に迫る!前編 柴田裕史

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ウクライナの概要

ウクライナというとほとんどの人は東欧のどこかの国、ロシアと紛争中の国あるいは美女大国というイメージしかないと思います。実はチャットアプリのWhatsapp、Paypalの創業者など、多数の天才的IT技術者を輩出したIT大国でもあるのです。

治安:

ウクライナと言えば革命、紛争のニュースしか日本では目にしないため危ない国、政情不安定な国というイメージが先行しがちです。しかし東部地域の一部を除き、治安はいたって良く、留学先として昔から人気のアメリカより数倍安全なイメージです。首都キエフにいたっては2019年現在まったく治安に問題はありません。

英語力:

若い人を中心に、英語力は飛躍的に向上しつつあります。IT技術者はほぼ外国特に北米、西欧を相手にしないと仕事にならないのでその英語力の高さは驚異的なレベルです。シリコンバレーを相手に多数のプロジェクトを請負っていることからも世界に通用する英語力を有していると言えるでしょう。

物価:

2014年のユーロマイダン革命以降、現地通貨フリブニャの価値が急落したため(対米ドル換算で約3分の1に)、現地の物価は激安です。外貨を持っている日本人としてはこの物価差を利用しない手はないでしょう。

IT技術力:

ウクライナ人IT技術者のレベルの高さはここで述べるまでもないでしょう。シリコンバレーをはじめとする欧米の大企業は今東欧、特にウクライナに注目し、開発拠点を置く企業が続出しています。理由は主に旧ソ連時代から続く高度な理数系教育と、IT以外の職種の平均給与が異常に安いこと(平均でも月額350米ドル程度)に起因しています。日本ではかなり高給である医師の平均月給が400米ドルと言えばその低さが良くわかると思います。ちなみにIT技術者ならジュニアスタッフでも月給1000ドルは稼げるそうです。

ウクライナの言語事情について ​

ウクライナの公用語はロシア語とポーランド語に近いウクライナ語ですがほとんどのウクライナ人はロシア語をネイティブ並みに理解します。ロシア語が母語のウクライナ人も東部中心に多いです。首都キエフではロシア語を耳にする機会がとても多いです。ロシアとの政治的関係からここ数年はロシア語よりウクライナ語が優先される傾向にあります。

ウクライナ人の英語力ですが20歳ぐらいを境にしてその差が顕著になる感じです。つまり20歳以下は英語教育に力を入れ始めた2014年ごろの恩恵を受けている可能性があり、英語は問題なく話せる人が多いです。やはりヨーロッパ人なので日本人より断然習得度が早いといってよいでしょう。今後ウクライナがどんどん西側に取り込まれていくにつれ、英語力は比例して上がっていくと考えられます。

その他、IT技術者に限って言うと彼らは外国を主な顧客としてオフショア開発をしているので英語力は抜群に飛びぬけて高いです。ウクライナではIT技術者は弁護士、医者、公務員以上の高給取りの職業で社会的ステータスもとても高いです。

フリーランサー天国

キエフの街中には無数のコワーキングスペース、電源Wifi完備のカフェが存在し、これらの場所を訪れるとラップトップコンピューターを広げたプログラマーやIT関係者らしき人々の姿をそこら中に目にすることができます。

意外に思われるかもしれませんがウクライナのWifi事情は日本以上で、Wifiがないカフェ、レストラン、店舗、オフィスなどは皆無と言っても過言ではないと思います。少なくともキエフ在住の筆者の経験上はお目にかかったことはありません。逆に日本にいたときはちょっと洒落たカフェに行ってもWifiの有無を聞くと「すみません~。うちWifi置いてないんです。」みたいなことを言われ唖然としたことが何回もありました。日本では電源のあるカフェなどはめったにありません。長居をされると店側も困るのでしょうがクラウド化の進んだ現代においてWifiの整備は国を挙げて行うべきではないでしょうか?

携帯電話のデータ通信料もウクライナは激安です。100 フリブニャ (2019年4月現在のレートで420円ほど)ほど払えば1か月ネット使い放題、余裕で暮らせます。日本で1万円近く払っていた自分は移住当初携帯料金のあまりの安さに驚きました。こちらはデータ通信つきのプリペイドSimを購入し、街の至る所にあるターミナル(また次回詳述します)と呼ばれるチャージマシンで必要な時に支払うのが主流です。

さてウクライナで一番稼げる職業は何だと思いますか?公務員?弁護士?医者?いえいえ違います。それはなんとフリーランスのITプログラマーなんです。

ウクライナのIT業界は非常に特殊でIT企業に勤めているエンジニアは社員として雇われているのですが、なんと全て個人事業主扱いになっているのです。これにはウクライナの特殊な税制が関係しています。ウクライナは従業員でも会社と個人事業主として契約しており、法律で決められた最低賃金の部分以外の賃金を営業利益として受け取っています。それにかかる税金はなんと5%なんです。ここになぜウクライナがIT大国として近年急成長してきたかの理由が隠されています。西欧や北米のどの国よりも税率が低いので実質ウクライナはIT技術者にとってのタックスヘイブンであるのです。彼らにしたら自分の国だし物価も低い、普通の職業の方々より数十倍稼げるなどのメリットを享受でき、多少賃金が上がってもそのメリットを相殺するほどではない他の国へわざわざ移民することを選ばないという意味でこの税制はウクライナからの頭脳流出を防いでいると言われています。

こういった理由でウクライナはフリーランサー、特に外国の顧客を相手にするIT技術者の天国となっているのです。

スタートアップシーン

ここ3~4年ほどエストニアがテック大国として注目を集め始め、今では大手の日本企業、ベンチャーキャピタリスト、はたまた日本人の学生や新卒まで大注目を浴びている電子立国エストニアですが、筆者も日本人としてはエストニアのe-Residencyの取得者の初期10人のうちに入っていると思います。そのころからエストニアの可能性を見出していた筆者ですが、どうもエストニアは国を挙げての電子立国そしてスタートアップ大国としての努力が功を奏したようで今ではその実際の実力よりかなり過剰評価されている感が否めません。かくいう私もエストニアの努力は十分認めており、スタートアップ企業、海外からの投資の呼び込み、ペーパーレス政府そして必要な法整備など国ができることはすべてやっており、日本が学ぶことは多々あるかと思います。

しかし国としてのエストニアを見る限り人口が100万人で機動力があり、EUからの投資を呼び込みやすい環境など日本とはあまりに違うため、すぐに日本で同じことが出来るかと言うとそうは一概に言えない例が多いと思います。エストニアは現地のエストニア人および海外在住の他国人がエストニアで登記しているだけのスタートアップ企業が多いのですが、コワーキングスペースの数、国内需要、EU加盟国ということからくる法規制の多さ、柔軟性のなさが特に日本企業とビジネスをする上で障害になっていると感じます。人口の少なさ故、採用のしずらさと物価、人件費の高騰もそれに拍車をかけています。

翻ってウクライナを見てみるとEU加盟国でないがEUとの親和性、メンタリティや地理的な近さ、法規制、特に税制や労働法がEUほど厳しくないという利点を最大限に生かし、オフショア開発拠点としてここ数年急激に成長しました。人口4500万人のうち実に20万人がIT技術者と言われ、毎年2万人を超える理数系の大卒者がIT業界に新たな労働力を供給しています。

ウクライナのスタートアップ企業の多さには驚かされます。日本のように普通に企業や役所に就職し、終身雇用で一生を終えるというキャリアパスは全くポピュラーではなく、起業こそが成功への唯一の道だととらえられているからです。起業家の多さ、その熱意は筆者が住んだことのあるEUの他のどの国(ちなみにEU5か国に在住経験があります)よりも上だと思います。現在世界的に成功しているウクライナのスタートアップ企業の多くが米国のシリコンバレーやエストニア、イスラエルなど他国に登記をしていますがこれはウクライナのITコミュニティが政府の援助に頼らず最初から海外をマーケットと認識しており、立ち上げ当初からグローバル展開を狙っていることが関係しています。

ウクライナの首都キエフでは毎週のようにスタートアップ関連のイベントが行われ、外国人投資家や政府関係者、起業家、ゲストスピーカーを招いていることからその多くが英語にて行われています。その後に通常行われるネットワーキングパーティではほぼ全員が英語を話し、自らのビジネスを積極的に宣伝するそのハングリー精神には脱帽するばかりです。

日本の孫 泰藏氏のMistletoeが出資をしている数々のスタートアップ企業を輩出した伝説のエストニアのコワーキングスペース、インキュベーションセンター、スタートアップコミュニティのLIFT99がエストニア外の初の拠点をウクライナのキエフに置いたのは決して偶然ではありません。エストニアのスタートアップ企業の多くがウクライナにR&D開発拠点を置いているためです。

以上のことからエストニアの次のテック大国、IT立国として次に日本でBuzzる国はウクライナを置いて他にないと断言できます。残念ながら日本企業は保守的な企業が多く、メディアのネガティブな報道を鵜呑みにし、カントリーリスクが実際以上にハイライトされているため尻込みする場合が多いのですがそうしている間にも欧米企業のみならずお隣の中韓企業はどんどんウクライナにR&D拠点を作りつつあります。投資は逆張りと良く言われますがまさにほとんどの日本企業が二の足を踏んでいる今こそウクライナへ投資する時ではないでしょうか?

今がウクライナ進出のチャンス?

以上のことから、これからインド、ベトナムなどの従来のオフショア開発センターを超える可能性を秘めたウクライナは更なる発展が期待されます。日本IT企業は現地にはまだ一社も進出しておらず、まさにブルーオーシャン状態と言えます。進出するなら今が一世一代のチャンスではないでしょうか?

Ago-ra IT Consulting(柴田裕史)へのご連絡は下記まで:
hiroshi.shibata@ago-ra.com

HP: https://ja.ago-ra.com/

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