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人事領域(上流/elearing/ERP)コンサルでの人材開発/人事の一歩先の動向を考えます!

「AIは制御できるのか」という問いの前に、人事が決めておくべきこと ― 赤ちゃんのトラ、OKR、そして「監査人を監査するのは誰か」

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▫️はじめに

Forbes JAPANに、AIサミットのパネル議論を伝える翻訳記事が掲載されました(2026年10月8日掲載、寄稿者はJohn Werner氏)。タイトルは「人間はAIを制御できるのか? 急加速するAIエージェント時代と構造的ジレンマ」です。

AIエージェントが企業の業務に入り込み始めた今、「制御できるのか」という問いは、技術者だけの問題ではなくなっています。誰に何を任せ、どう評価し、何が起きているかを誰が把握するのか。これは人と組織の設計そのものだからです。

本稿では、まず記事の内容を整理し、そのうえで人事・組織の観点からの私の解釈を述べます。事実の整理と私の解釈は、分けて書きます。

▫️記事の概要

議論の舞台は、米国カリフォルニア州マウンテンビューで開かれたAIサミット「Imagination in Action: The Next Endeavor 2026」です。進行役のブラッドリー・オルソン氏が、AIを本当に制御できるのか、それとも制御できないのかを、パネリストに問いかけました。記事によれば、筆者はこのイベントの主催団体の活動に関わっています。

記事の導入では、投資家の間で「FUD(恐怖、不確実性、疑念)」がかつてなく高まっていること、大手企業の研究者やエンジニアが相次いで離職して証言していること、AIエージェントとの協働に多くの人が不安を感じていることが述べられています。不安の例として、AIモデル共有プラットフォームHugging Faceで起きたハッキング事件への言及もあります。

▫️登壇者ごとの主張

記事から読み取れる各登壇者の主張を整理します。

1. ノエル・ラッセル氏(AI Leadership Institute CEO・創業者)

トラのぬいぐるみを持って登壇し、AIを「赤ちゃんのトラ」にたとえました。かわいらしく、誰もが気に入り、制御しやすい。その初期段階にこそ、本質的な問いを投げかけるべきだという主張です。

州政府、地方自治体、中堅企業を支援してきた経験から、次の指摘もしています。
・経営幹部は、AIソリューションの仕組みを十分に理解しないまま導入することがある。「無害な小さなAI」だと思い込み、赤ちゃんのトラを大量に迎え入れている。
・最も重大な課題は、自社の業務、開発者が作るエージェント型ソリューション、外部委託先が自社向けに作ったものについて、経営幹部が「まったく可視性を持っていない」こと。

2. ゾヘイブ・アーメド氏(音声生成AI・セキュリティ企業Resemble AIの創業者兼CEO)

Hugging Faceの件に触れ、可観測性が期待を裏切ったと指摘しました。システムを流れるデータを実際に理解していなければ制御は作れず、そのLLMを把握すること自体が非常に難しい、という見方です。

最大の懸念として挙げたのは、LLMとほぼ同等の性能を持つオープンソース版が登場していることです。数十、数百のモデルそれぞれに制御を実装することになり、「非常にややこしくなる」と述べました。一方で、コーディングの脆弱性を防ぐフレームワークの広がりや、予防的な安全対策への企業の賛同の拡大を理由に、オープンソースの取り組みには楽観的でもあります。現状は「比較的初期段階」という位置づけです。

3. アレックス・ウィスナーグロス氏(物理学者・コンピューター科学者、Physical Superintelligence創業者)

「制御」という言葉が、そもそも適切な動詞だとは思わないと述べました。強力な知性を制御しようとすべきではなく、目指すのは「相互アライメント」であり、人類と超知能の共同アライメント、防御的な共同スケーリングの問題だとしています。

議論の締めくくりでは、「監査人を監査するのは誰か」という問題を提起しました。一般的な産業では、監査人への懸念は「リスクを過小評価すること」で、債券の信用格付け機関が例に挙がっています。AI業界で起きていることはその逆に見える、というのが彼の見解です。真のリスクは、現在の開発慣行に異議を唱える側に特定のアジェンダがあることかもしれず、より強い規制を求めることで、壊滅的リスクや存亡リスクの責任を民間企業ではなく政府に押し付けようとしている可能性がある。これを「構造的な歪み」と呼びました。

最終局面は「防御的な共同スケーリング」で、最終的には「AIを監視するのはAI」になるだろうと予測し、大都市に大規模な警察組織が必要なように、超知能文明には超知能の監査人や評価者が必要になると論じています。

4. 組織の「憲法」とOKR

AIエージェントの「憲法」(行動規範)をめぐる場面もあります。ウィスナーグロス氏が、組織は人間の従業員を「制御」しているのかと問いかけ、ラッセル氏は目標管理の枠組みであるOKR(Objectives and Key Results)を挙げて応じました。AIエージェントの憲法も、従業員の評価と同じ仕組みで考える。つまり、目標と主要な成果を設定し、それを細分化して測る、という考え方です。ただし、ほとんどの組織は、そのレベルの記述や定義すら行っていないと指摘しています。

▫️私の解釈:人事の視点から読む

ここからは、記事そのものではなく、私の解釈です。

1つ目。「制御」より「運営」という発想が、組織には馴染むと感じます。

ウィスナーグロス氏の問いかけは、人事の実務にそのまま重なります。私たちは従業員を「制御」しているわけではありません。役割と権限を定め、目標と評価基準を共有し、上司やチームが状況を見える状態にして、相談窓口を用意する。そのうえで、任せて、見て、必要に応じて修正する。これは制御というより、運営です。

AIエージェントが増える今、組織に求められているのは、この運営の設計をAIにも広げることではないでしょうか。具体的には、次の4点です。

・誰が責任者か(オーナーシップ)
・何を任せ、何を人が判断するか(権限の範囲)
・何を成果とみなし、どう評価するか(目標と評価)
・今、何が動いているかを誰が把握するか(可視性)

2つ目。「赤ちゃんのトラ」は、組織の中で静かに増えていきます。

ラッセル氏の指摘で最も重いのは、経営幹部が自社の業務、現場のエージェント、委託先が作ったものを把握できていない、という点だと思います。現場が便利なエージェントを作り、外部ベンダーが納品し、気づけば誰も全体を把握していない。人事の言葉で言えば、役割も責任者も不明のまま、業務を担う存在が増えていく状態です。人の組織なら、組織図と職務記述書がない状態に近いでしょう。AIの棚卸しは、人事が普段やっている「人員と役割の把握」の延長線上にあります。

3つ目。OKRで測る設計には、グッドハートの法則という落とし穴があります。

「目標を置き、細かく分け、測る」という発想は、AIの行動をコントロールする手段として分かりやすいものです。ただ、人の評価制度を見てきた立場から言えば、測れるものだけを目標にすると、数字は達成されても、本来の意図からずれていくことがあります。指標が目標になった瞬間に、その指標は良い指標でなくなるという、グッドハートの法則です。

AIエージェントは、与えられた指標を人間よりも忠実に、そして高速に最適化します。それだけに、何を測るか、測らないものを誰がどう見るかという指標の設計と、人による定期的なレビューを組み合わせる必要があると考えます。人の評価制度で磨かれてきた知見は、AIの目標設計にも生かせるはずです。

4つ目。「監査人を監査するのは誰か」は、社内の三線管理の問いでもあります。

ウィスナーグロス氏の問題提起は、規制や評価機関をめぐる大きな文脈で語られたものです。ただ、企業の内部に引き寄せて読むこともできます。AIエージェントの動きを監視する仕組みを置いたとして、その仕組みが正しく機能しているかを誰が確かめるのか。内部監査や第三者の視点をどこに入れるのか。人の組織でも、評価者を評価する仕組み(キャリブレーションや、上司の上司によるレビュー、独立した相談窓口)を整えてきたのと同じ構造です。

▫️留意点

記事を読む際に、押さえておきたい点が3つあります。

・本記事は寄稿者による翻訳記事で、パネリストの発言を伝える内容です。特定の人物の立場から語られた主張であり、AI研究者や規制当局の合意された見解ではありません。
・本文に具体的な数値データはほとんど含まれていません。「どの程度の企業が可視性を欠いているか」などは、記事からは分かりません。
・規制強化を求める動きの背景に特定の意図があるのではないか、という議論は、あくまで一人の登壇者の見方です。立場によって評価は大きく分かれるため、鵜呑みにせず、複数の視点から検討する必要があります。

また、冒頭に触れたとおり、記事の筆者はイベント主催団体の活動に関わっています。この点も踏まえて読むのが良いでしょう。

▫️自社で確認したい5つの問い

最後に、自社のAI活用を点検するための問いを挙げます。

1. 自社で動いているAIエージェントを、一覧で把握できていますか。委託先が作ったものも含めて。
2. それぞれのエージェントに、人間の責任者(オーナー)が決まっていますか。
3. 何をAIに任せ、何を人が判断するのか、権限の範囲が書かれていますか。
4. エージェントの目標や評価指標は、意図とずれていないか、定期的に人が確認する場がありますか。
5. 監視する仕組みそのものを、誰がどのようにチェックしますか。

▫️おわりに

「AIを制御できるのか」という問いは、技術の議論としても重要です。ただ、企業の現場で先に問われるのは、もっと手前のことだと思います。自社のAIを把握できているか。役割と責任を決められているか。人の組織づくりで積み重ねてきた知恵を、AIにも適用できているか。

AI活用の本質は、ツールの導入ではなく、人と組織の変革にあります。AIが組織の中で働く時代に、人事が果たすべき役割はむしろ大きくなっていると、私は考えています。

▫️出典

Forbes JAPAN「人間はAIを制御できるのか? 急加速するAIエージェント時代と構造的ジレンマ」(2026年10月8日)

(原文はJohn Werner氏によるForbes寄稿。Forbes JAPANの掲載は翻訳記事です。)

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