アンケートの落とし穴 ~回答例を入れるとそれに引きずられる~
アンケート。いろいろな場面で答えたり、答えていただいたり。
広く意見を集めているつもりでも、結果として「誘導してしまった」というケースが多々あります。
たとえば、研修において、以下のような事前アンケートを受講予定者に行ったとします。
Q1:あなたが日ごろ指導する相手はどなたですか?
これだけの記載ですと、回答がこんな風になりがちです。
A1:部下 2人
A1:後輩 1人
A1:部下も後輩もいないので、指導はしていない
ところが、Qのほうをこう変更すると回答が変わります。
Q1:あなたが日ごろ指導する相手はどなたですか?
(回答例: 部下1人、 部下ではないが、協力会社の若手メンバ1人、プロジェクトメンバ内の自分より年長のメンバ、 他部署の利害関係者に時々アドバイスをする程度 など)
A1:部下はいないが、プロジェクトメンバの複数の若手
A1:協力会社の年上のメンバ
A1:部下や後輩というラインの関係ではないが、業務で共同作業が多い他部署のメンバ(年長者含む)
幅広くなるのです。「あ、そういう視点でもいいのか」と回答者が気づくためですね。
もちろん、逆もあります。
Q2:あなたが仕事におけるコミュニケーションで課題だと思っていることを挙げてください
A2:組織の風通しが悪い
A2:上司が朝令暮改
A2:お客様に振り回される
こんな例が出てくる可能性がありますが、Q2に例を加えます。
Q2:あなたが仕事におけるコミュニケーションで課題だと思っていることを挙げてください
(回答例:人の話を正確に聞けない、言いたいことがあっても我慢してしまう、文章での表現が苦手 など)
A2:会議で上手に自分の考えを伝えられない
A2:顧客の要望を聞き取れない
A2:まとまりのない議事録になってしまう
この例は、「回答例」に引きずられて、「自分のこと」のみを応えてしまっています。回答例がなかったならば、組織の課題にまで言及していたかもしれないのに。
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研修で事前アンケートや事前課題をお出しすることがあります。受講者に「こういう内容で何かをまとめてきてください」と依頼すると、たいていの場合、「何を答えたらいいのかわからないので”回答の仕方”例を入れてください」と言われます。
そこで、回答例を付けるのですが、そのつけ方次第で、発想を広げることにつながったり、発想を狭めてしまう原因になったりもします。
人は、自分で自由に多角的に考えているようでいて、目の前にある「サンプル」にものすごく引きずられます。
新入社員のことを「イマドキの若手は、自分の頭で考えないよなぁ」「自分の枠を取っ払うの、苦手だよなぁ」と評価する中高年上司世代であっても、同じです。
回答例が示されないと答えづらいのに、回答例が示されるとそこにうっすら見えてしまうライン(枠)を超えては考えられなくなります。
回答例は、あくまでの「例」なので、完全に無視してもよいのに、です。
回答例を見てしまった瞬間、そこに「枠」の中から出られなくなるんですよね。
そこに書かれた回答が「すべて」ではないと考えてかからなければならない。
・・・・・。
別の見方をすれば、アンケートは作為的にも使えるわけです。
「こういう回答がほしいなぁ」と思って、「回答例」を提示すれば、なんとなく全体の方向がその「回答例」に沿って行きます。
何か提案するために、事前アンケートを取るとします。
結果が自分が目指している方向に近づく回答例を入れておくと、自分がほしい回答が寄せられやすく、「ほら、”みんな”こう言っているので、やりましょうよ」ということもできる・・・かもしれません。
答えるときも結果を見るときも、落ち着いて対応する必要がありますね。