顧客コミュニティ構築の落とし穴 ~ 50%の確率で企業独自のコミュニティが失敗する理由
さて,今回から数回にわたり,私の本業である企業独自のコミュニティ(プライベート・コミュニティ)構築をテーマとしてすすめていきたい。
以前のブログ
「バナーをクリックしない68%のユーザーにリーチする秘訣」 【中編】
「バナーをクリックしない68%のユーザーにリーチする秘訣」 【後編】
で,Fiskateers という企業コミュニティの成功例を取り上げた。
コミュニティとは縁遠いと思われた「はさみメーカー」が,素晴らしい成功を収める事例であり,そこにはコミュニティ成功のエッセンスが凝縮されている。
企業の独自コミュニティ構築は,競合他社との持続的差別化を図る強力なツールとなるが,反面,実は成功確率は低く,いくつもの高いハードルが待ち構えているのだ。
では,どのくらいの成功率か?
それは,この記事を見ていただくのが良い。
■ 「ソーシャルメディア・キャンペーンの半数は失敗。アナリストが指摘する理由」
この記事,2008年10月に発表されたGartner社Adam Sarner氏の調査結果の要旨はこうだ。
・2012年には,顧客売上の50%にインターネットが関与するだろう
・そのため,フォーチュン1000社の75%がソーシャルメディアにより顧客関係強化を図るだろう
・そのうち50%は失敗するだろう。最大の理由は企業とユーザーの「共通の目的」がないからだ
・企業ごとにビジネスが異なるため,普遍的な解決策は存在しえないだろう
・それでも多くの企業は,不況下,顧客との交流維持のため,ウェブへの投資をやめないだろう
この調査内容は,私が現場や海外ウェブ調査を通じて体感している事にほぼ通じる。
そしてこの問題点をどう解決し,競合企業よりも先にロイヤルユーザーと関係性を構築するか?
これこそが,私がこのブログで伝えたいポイントだ。
今回はすこし長い連載になると思うが,順に秘訣を公開していきたい。
■ まずこの企業とユーザーの「共通の目的」をどのように構築すればよいのか?
もう少し具体的に,前コラムで例示した Fiskars社のケースで考えてみよう。
Fiskars社の目的は,単純に言えばハサミの売上を上げたいということだ。
一般的なアプローチでは,
・ハサミに関する情報ポータルサイトを構築しよう
・単純な情報提供だけではなく,ユーザーに交流をしてもらおう
・それによりコンテンツが集まり,さらにクチコミが広がるだろう
・そこにコマースサイトを連動させて売上をあげよう
このような発想展開になる。
さて,
・誰がハサミ情報に興味を持ち?
・そのコミュニティに積極的に参加して?
・クチコミをしてくれるのか?
この時点で,最初の落とし穴にはまり,「開設はしたが誰も訪問しない,しかしブランドイメージがあるので閉鎖もしにくい」継続的なコストセンターができ上げることになる。
ハサミは極端な例だが,多かれ少なかれ,現状はこのような考え方で開設されたコミュニティが多い。ヒトコトで言うと「場をつくればユーザーは集まってくるし,ユーザーは自発的に会話をはじめ,次第に活性化していく」という先入観が間違っているのだ。
■ 視点を主役である顧客に移し,徹底的にユーザーの立場で考える事が大切だ。
中途半端な(どっちつかずの)視点ではなく,大胆にユーザーの立場になりきろう。
そうするとどうなるかは,Fiskars社の Fiskateers を見ていただければわかる。
バナーをクリックしない68%のユーザーにリーチする秘策 【中編】
つまり,Fiskars社は,
・商品そのものより商品の使い方に着目し -- はさみではなく,スクラップブッキング
・顧客調査を通じてペルソナ仮説をたて -- 若い女性世代のクラフトマニア
・そのインサイトを深く理解し -- 同好の友人と交流し,作品をお披露目したい
・それを実現するためのコミュニティとコンテンツ -- 5人がリードするFiskateers
をつくりあげたのだ。
さらに巧みなことは,顧客が販売店に足を運びたくなるイベントを開催し,その求心力として5人のメイン・パーソナリティを活用していることである。このネットとリアルの相乗効果はビジネス飛躍の秘訣である。
ここではじめて,課題であった「顧客と企業の目的」が一致したのだ。
前述のガートナー社で調査担当アナリストであるAdam Sarner氏が,CNETの取材に答えた言葉は味わい深い。まさにソーシャルメディアの真髄を言いあらわしている。
「ソーシャルメディアはライフラインになる。顧客との関係を損なわず、顧客の気持ちをつかむことが最も大切なことだ」
次回からは,コミュニティ構築の前に横たわる様々なハードルをクリアするための,具体的な成功の秘訣をご紹介していきたい。