Appleにモノ申した男(だと思う)の着眼点
今年はMacintoshのデビューから30周年ということで、各誌はApple特集だらけですね。
オンライン版のTimeは、「Appleにモノ申した人たち」という面白い特集を組んでいます。一般人が「Appleはこういう製品を作るべきだ」ということを発言し、ほぼその通りになったケースを集めていますが(NFCなどまだ実現していないものもあり)、この中でダントツで面白いのは、iPod 全盛の2005年、すなわちiPhoneが出る2年前に「Appleは今、iPodに電話機能を付けて世に出すべきだ」と主張したCortlandという人のケースです。
Why Apple must come out with iPhone
OSに関するフォーラムだと思いますが、Cortlandというユーザ名の人が、「経営トップ層は生産性を向上するためにiPodに電話機能を付加したデバイスを求めるはずだ」と主張してスレッドを始めているのですが、他のフォーラムメンバーから袋叩きにあっているんですね。炎上寸前といったところ。
Cortland氏は、経営トップは生産性を上げるためであれば値段は問わない、$500でも買うと述べているのですが、他のメンバーは、「携帯電話が$200しかしない時代にどうして$500の電話を買うんだ?」とか、「携帯電話市場は飽和している、Appleは参入すべきではない」とか、いろいろ反対意見を述べています。
私が実に面白いと思ったのは、Cortland氏と他のメンバーの視点がまったく違うことです。大変勉強になったとも言えます。Cortland氏は、意思決定のプロである経営トップ層が欲しいデバイスは、いつでも持ち運べて意思決定の支援をし、それを伝達できるものだと主張しています。それは携帯型のポータブルPCであり、電話であり、時には音楽が聴けるデバイスなんでしょう。今までに存在しなかった新たな市場のアーリーアダプターのニーズなんですね。
一方で、他のメンバーは、飽和した市場、高価格、スイッチングコストなどの様々なハードルを挙げていますが、要するにCortland氏とまったく違う市場についての話をしているわけです。そりゃ、平行線をたどるわけです。さらにCortland氏は、この新たなデバイスはパラダイムシフトを起こし、PC市場を変えるだろうといった趣旨の予言もしており、びっくりします。
Apple社内でも同じような議論があったかもしれませんが、Cortland氏が新規市場のアーリーアダプターに明確に着目し、その主張を頑として譲らなかったのは、まるでSteve Jobs氏の頑固さを見るようです。
Apple(あるいはSteve Jobs氏)がCortland氏の発言を見たのかどうかは分かりませんが、時代はCortland氏の主張した通りに動きました。そして、iPhone事業はAppleの事業モデルを完璧に変えてしまいました。新規事業の戦略立案ほど難しいものはありませんが、Cortland氏のシナリオベースの着眼点は実に素晴らしいと思った次第です。
そして、フォーラムやSNSでの発言は、慎重にしないと将来恥ずかしい思いをするぞ、と肝に銘じたところです。