Office 12でマイクロソフトが仕掛ける大きな賭け
会社のビルの1階にある洋書屋さんにふらりと入って、久しぶりに米PC WORLD誌を買いました。日本もそうですが、米国のパソコン雑誌も広告が減ってずいぶん痩せてしまいましたね。
PC WORLDで大きく取り上げられていたのが、Microsoft Office 12β1のレビュー。2006年中に出荷が開始される予定のこの製品は、ファイルフォーマットとユーザーインタフェイスの変更が行われるそうです。
ファイルフォーマットとユーザーインターフェイスが変更に
Offce 12のデフォルトのファイルフォーマットは、ZIP圧縮されたXML文書に変更。拡張子はこれまでの拡張子にxを追加して、---.docxや---.xlsxになるそうです。しかも、この圧縮されたファイルにはデータのファイルとスタイルシートのファイルが含まれていて、例えばWordではスタイルシートのファイルを入れ替えるだけでいろんなスタイルの文書に変更できるとのこと。ファイルの大きさもこれまでよりも圧倒的に小さくなったと紹介されています。
ユーザーインターフェイスの最大の変更点は、ドロップダウンメニューの廃止。「ファイル」や「編集」というメニューをクリックすると、びろろーんと垂れ下がってきたメニューがなくなります。替わりに、いまのツールバーの位置に“リボン”と名付けられたタブ型メニューが登場するそうです。メニューがタブになっていて、「ファイル」タブをクリックすると、それに関連する“リボン”が表示され、リボン上に関連する機能がアイコンなどで表示されるとのこと。しかも、現在のOfficeと互換性のあるユーザーインターフェイスに切り替えるオプションは用意されない、とPC WORLDは報じています。
参考:
次世代Office、UIはどう変わった?(ITmedia)
さて、ここであえて私が指摘するまでもなく、「ファイルフォーマット」と「ユーザーインターフェイス」は、Microsoft Officeのの大きな強みだったはずです。「取引先が送ってきたファイルがOfficeの新バージョンでしか開けないので、(仕方なく)新しいOfficeを買った」とか、「Wordに慣れていたので、一太郎でなくWordを使い続けている」といった話は、ありふれているほどよく聞く話です。
この両方を新バージョンで大幅に変更するという決断を、マイクロソフトはなぜ行ったのでしょう? はた目には失敗したときのリスクが大きい、非常に大きな賭けのようにも見えます。
XML化とオープン化が同時進行
現在、ビジネスドキュメントは「XML化」と「オープン化」の2つが同時進行しています。このトレンドの先端を走るのは、マイクロソフトではなくOpenOffice.orgです。
オフィスアプリケーションの文書フォーマットに関して、OpenOffice.org 2.0で採用されているOpen Document Format for Office Applications (OpenDocument)が標準化団体のOASISによって承認されました。その上で国際標準化機構ISO/IECにも提出され、今年5月に締め切られる投票を通れば、OpenDocumentが国際規格になるそうです。
マイクロソフトがこのトレンドに遅れるわけにはいきません。できれば先手を取りたかった、というのが本音でしょう。もしもオフィスアプリケーションのファイルフォーマットに関してイニシアチブを失ったら、マイクロソフトにとって非常に大きな打撃です。Office 12でデフォルトフォーマットをXML化することは不可避だったといえます。
また将来、発注書、請求書、見積書、それに財務会計書類など、ビジネスドキュメントのほとんどがXML文書として流通するようになったとき、それを.NETのバックエンドで処理するのと同様に、フロントエンドとなるオフィスアプリケーションでもネイティブに処理できることは、マイクロソフトの.NET構想上も重要なことでしょう(Office 12でそうなる、という意味ではないですが)。その面からも、Office 12でのネイティブXMLファイル化は遅すぎたといってもいいかもしれません(そういえばジャストシステムもxfyというXMLオーサリングツールを出していますね)。
さて、XML文書化はOffice 12で果たせるわけですが、オープン化についてはこれからです。Office 12のデフォルトフォーマット「Microsoft Office Open XML」はEcma Internationalに提出され、標準化活動が開始されました。OpenDocumentと同様にISOによる標準化を目指すようですが、早くも主に知的所有権の点で懐疑的な意見もでています。
参考:
MSのOffice XML構想に欠陥あり(ITmedia)
しかも、OpenDocumentを支持していたマサチューセッツ州のCTOが辞任するなど、標準化のバトルは政治的な面もからみつつ一筋縄ではいきそうにありません。いずれにせよ、マイクロソフトはOfficeというドル箱を守るために、この標準化運動で負けるわけにはいかないところです。
攻めのユーザーインターフェイス改善か?
ユーザーインターフェイスの変化は(も)、OpenOffice.org対抗と見ることもできますが、それよりも「保守的になるより、進化するユーザーインターフェイスを提供することが価値である」とマイクロソフトが考えた結果ではないでしょうか。Officeの進化は「機能が多すぎて使いこなせない」というユーザーの声との戦いでもあり、いかに使いやすくするかは長期的に非常に大きな課題です。そのために、非互換性を恐れずに進化させるべきだという議論が勝ったのではないかという気がします。
それに、複数のボランティアが協力してコンセンサスを作りながら開発するオープンソースでは、強いリーダーシップが求められる大胆なユーザーインターフェイスの改変は苦手なところといえ、そこを攻めるのは作戦として有利と考えたのかもしれません。過去のユーザーインターフェイスに対する互換性を用意していない点は大きな賭けですが、まだβですので今後方針が変わるかもしれませんね。
そういえば先週、Office 12βをPCに入れて使っている人を見かけました。使った感想を聞かせてもらえればよかった、と今になって思います。