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夏目房之介の「で?」

NHKBSプレミアム「UZUMASAの花火」

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少し前にやってたドキュメンタリーの録画をみた。
14日21時からプレミアムで放映する映画『太秦ライムライト』の撮影現場を撮ったものだが、監督はハリウッドで学んだ新人日本人で、カメラマンはアメリカ人。映画の主人公は新人の女優と、彼女の師匠役をやる斬られ役の福本清三。のけぞりながら斬られて死ぬ、あの人。もう70歳なんだね。それで、あれだけ動けるんだ。すごい。
見所は、太秦の斬られ役や殺陣師、そして松方弘樹などの伝統的チャンバラ世界のスタッフと、ハリウッドのやり方をやろうとする監督とカメラマンの対立場面。ハリウッドは様々な角度から何度も同じ場面を撮り、最終的に編集でアクションなどを何十カットも連続してつなげる。ドキュメンタリーでは『ラストサムライ』の場面を引いていたが、たしかにその通り。最近はとくにそうなってるかも。が、太秦側は、逆に一発で全部撮る、それも同じ角度からのカメラに対応して殺陣をきめるので、なかなか議論がかみあわない。角度を変えると、刀が当たってないのがバレてしまったりするのだ。なるほど、こういう違いがあるんだなあ、と大変興味深かった。
あと、監督が演技のためのメソッドを新人や福本らにやらせる場面も面白かった。同じ言葉を二人相対でえんえんと繰り返す練習で、その言葉に意味を与えずにやるとか、逆に「怒り」をこめるとか、これも興味深い。こういうところは、ハリウッドは面白いことやってそうだな。

福本が、松方弘樹に「なまったんじゃないか」と言う場面があって、しかし何十年も時代劇スターと斬られ役をやってきた間で、そんなことをいえるはずがない、と福本は思っていて、結局10テイクくらいとってやっとセリフがいえる場面も、なかなか面白い。あと、正面から目を合わせてほしいと福本に監督が要求するのだが、ひょっとしたら福本的にはそこはそらせるほうが自然なんだろうな、と思ったり、色々想像して見てると、なかなかに興味深いのだ。

監督が、福本をすごく尊敬していて、インタビューで何度か彼について話しながら、感極まって涙を流してたのが印象的だった。映画は、時代劇ではなく、時代劇を取れなくなった太秦と、斬られ役の悲哀を、チャップリン『ライムライト』っぽく撮ったものらしい。

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