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夏目房之介の「で?」

ピアノ・リサイタル

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 中谷友美さんというピアニストのソロ・リサイタルに行ってきました。
 じつは、昨年北海道からの飛行機で偶然ご一緒し、どうもラフマニノフのピアノ協奏曲2番の話(おいお~い!?)をしたらしいんですね(正直よくは憶えていないんですが)。で、突然リサイタルのご招待をいただいて、しかも「たまにはクラシックも聴きたいなあ」とぼんやり思っていたところだったので、学生の論文読みと指導で余裕のない中、ぴゅっと行ってきたのでした。いや、こんなことあるんですねえ、袖すりあうも他生の何とかでしょうか。ちなみに、楽屋にはご挨拶に伺いませんでした。百人もいないような小さなホールで、お知り合いも多そうだったし、明日半日ゼミですしね。お礼のお花だけ置いてきました。

 以前、やはり知り合ったピアニストのリサイタルを聴いたことがあったんですが、僕はまったくその演奏に「音楽」の楽しさを感じず、途中で帰ってしまったことがありました。でも、今回はとても素敵な、楽しい時間を過ごさせていただきました。やー、たまにこういういいこともあるもんです。彼女のピアノは、とても力強く、また軽やかで、いろんな曲をやってくれたので、堪能できました。とくに、リスト「スペイン狂詩曲」はお気に入りでした。
 

プログラムは:

D.スカルラッティ「ソナタ ロ長調 K.87」「ソナタ ニ長調 K.96」
ベートーベン「ピアノソナタ 第1番 ヘ短調 Op.2-1」
リスト「スペイン狂詩曲 S.254」
I.アルベニス「入江のさわめき(マラゲーニャ)」 組曲「旅の思い出 Op.71 第6曲」
   「マヨルカ島 Op.202」 「パパーナ・カプリーチョ Op.12」
   組曲「イベリア」第3巻より「7.エル・アルバイシン」
   「ティエラの門(ボレロ)」 組曲「旅の思い出 Op.71第5曲」
アンコール 「仔犬のワルツ」

 えーと、クラシック音痴の僕がいうのもなんですが(ベトベンとリスト以外の名前知らないっす)、かなりバラエティのある構成で、じつに楽しい。しかし、ほんの瞬間、楽屋に戻るだけで、どうしてあんなに異なる個性の楽曲を続けざまに弾けるんでしょうか。プロだから当たり前っちゃ、そうですが。
 アルベニスっていう人のは、タイトル通りスパニッシュな(つか、ジプシー的なのかな)躍動感と哀愁のいったりきたりな楽曲で、面白いです。旋律に、いつかどっかで聴いたラテンな感じが懐かしく、部分的に「あれ?現代音楽?」みたいな箇所があったり。そいえば、うちの父親はよく「チゴイネルワイゼン」弾いたり、東欧的な民族的な曲もけっこうかかってた気がして、今でもそれ系好きなので、こういうのも好きです。でも、好みからいえば、もっと土俗っぽい(日本でいえば演歌のうなりやタメみたいな?)押しの強さとかアクがあってもいい気がしましたが、まあクラシックですからね、そうはいかないか。
 いいたいこといってますが、基本クラシック音痴のたわごとなんで、お許しを。

 じつは、特定の音になると「びょん♪」とかって、弦に何か挟まってるような異音がして気の毒だったんですが、それもさして気にならないクオリティでありました。スタンウェイだったですけど。
 しかし、リストって、よくは知らないが、むちゃくちゃ技巧的ですね。両腕交差させて弾いたり、とんでもないとこから、とんでもない飛躍したり、相当この人変わってんじゃねえかと、素人的には感じました。演奏自体は、きちんと枠内で弾いてるんですが、曲想の中にどっか「狂気」に走る印象がありますね。多分、昔どっかで聴いてはいると思うんですが、こんな風に感じた記憶はないかも。面白いもんです。
 ひょっとしたら、中谷さんというピアニストが批評的な音楽家なのかなとか、無責任に思いましたが。
 ともあれ、ひさしぶりにどっぷり音楽聴いたな、って感じで、満足でした。ありがとうございました。たまにこういうのあると、しあわせになるなあ。

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