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夏目房之介の「で?」

川本耕次『ポルノ雑誌の昭和史』ちくま新書

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2011年10月刊の本で、最近、未読本の山の中から発掘し、読んでみた。
タイトルの「ポルノ雑誌の昭和史」は、いささか言い過ぎで、内容はご本人がかかわった70~80年代のポルノ雑誌周辺の裏話。若い頃個人的にもお世話になった雑誌のタイトルや、マンガ方面から興味をもっていた雑誌などの話が出てきて、おかしい。著者は、当時やはり同じ業界にいた故米沢嘉博とも親しく、「月刊OUT」のみのり書房が出したマンガ誌「Peke」(後続誌「コミックアゲイン」も手伝ったらしい)という、「COM」の夢再びみたいな雑誌を作り、ロリコン・ブームを先導して、マンガ史にも足跡を残している。そのへんの話も、ときどき顔を出すので、マンガ史研究的には資料でもある(記述が錯綜してるのが難だが)。70~80年代の「ニューウェーブ」や、女性作家の誕生には、じつはエロ系雑誌が大きな役割を果たしていて、なかなか外からはうかがい知れない業界なだけに、このあたりはもっと詳しく知りたいところだ。
しかし、不思議と、エロ雑誌の版元の名前とか、意外におぼえているもので、「あ、この社名、記憶にある」とかいうのが多い。エロ系に対する男子の集中力というのは、あなどれないのだね。とくに、エロ系雑誌を出していた北見書房については、ビニ本ブーム終息ののち、社長が大崎で焼き鳥屋を営んでいたとの記述があり(p67)、びっくりした。じつは、大崎駅近く、いつも歩く住宅街に「北見書房」と書かれた、打ち捨てられた倉庫のようなビルが今でもあるのだ。どっかで見た社名だと思ったよ。記憶違いでなければ、つまり大崎に同社はあったのだね。今は、使ってないようだが、どうなってるんだろうか。
あと、僕の知り合いの名前も、たまに出てきて、にやりとする。竹熊健太郎、小形克弘、高取英、藤原カムイ、神埼夢現など。小形は、フュージョンプロダクトでバイトしてた頃から知り合いで、彼の担当で83~84年「コミックボックス」や「アリスくらぶ」に「模写によるマンガ批評」のようなものを描き始め、やがてマンガ批評本もフリー編集者の小形とともに作ってゆく。小形、竹熊とは『マンガの読み方』(宝島社)も作った。神埼さんには、本の装丁をお願いしたこともある。何というか、自分も歴史の一部みたいな(事実そうなのだが)ヘンな感じだ。
登場する雑誌では、アリス出版「GIRL & GIRL」に、『妄想族』というギャグマンガを数回連載したこともある。その社だったかどうか忘れたが、エロ系弱小出版社だけに、振込手数料を天引きしたり、みみっちい業界ではあった。あげく、原稿料を社まで取りに来いということになり、めんどくさくなってやめた気がする。貸本マンガみたいないい加減さが、たしかにあって、マンガを描く場としては面白くて好きだったのだが、原稿料のやりとりなどはきちんとしてないと我慢できない性分なので、その点では体質にあってなかったかもしれない。
当時、自販機本はマンガでも注目されるゲリラ的、アングラ的な媒体だった。77年には、全国に自販機が1万3000台、東京2800台、大阪1100台、ある特定グループで7000台持ってたとか、貴重な資料的記述もある。中央の出版流通ではない、営業で回るエロ本流通の話とか、「少女アリス」誌の吾妻ひでおの原稿料が、ほかより高くて1ページ1万円だったとか、面白い情報が色々載っている。しかし、大晦日に書く記事じゃないなあ。

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書評記事
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