ウィル・アイズナー版『劇画漂流』をゼミで
以前、ウィル・アイズナーの『ザ・スピリッツ』のベスト版と、自伝的なマンガ『ライフ、イン ピクチャーズ』についてブログで書いたことがある。
「ウィル・アズナー作品の翻訳を」
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2011/12/post-0360.html
Life, in Pictures: Autobiographical Stories
http://www.amazon.co.jp/Life-Pictures-Autobiographical-Will-Eisner/dp/0393061078
そのときも書いたが、『ライフ、イン ピクチャーズ』の中の『ザ ドリーマー』は、1930年代に起こったコミック・ブック隆盛の時代を背景に、彼自身が印刷屋のアルバイトからマンガ家になり、さらにスタジオを起こし、最後は共同経営者に会社を売るまでを描いた自伝的作品。
アメコミに興味がなくとも、ここに描かれる様々な現象には惹きつけられると思う。
たとえば、彼が最初にアルバイト先の社長を介して紹介される、マフィア系のエロマンガ(「ティファナ・バイブル」とも通称される、ミッキーやら有名なコミックのキャラがHなことをしまくるような本)などは、つげ義春が手伝った先生のエロ画や、さいとうたかをが若い頃描いたという春画系のものとか、温泉地で売っていた周縁的なエロ画を思い起こさせる。僕は、昔香港で、やはり露店の裏でそんなのを売りつけられそうになったことがある。周縁的な媒体であったマンガを考えさせてくれる場面だ。
また、パルプ・マガジン出版社とコミック・ブックの関係も描かれていて、考えてみればバロウズのターザン・シリーズもコミックになったし、中にはバットマンがターザンになってた絵もあったほどのヒット・キャラだった。スペース・オペラも、探偵物も、当然パルプからだし。ターザンは戦後すぐの日本でも映画やマンガで流行し、手塚の初期作品にもその影響がある。
主人公が覗き見るマンガ家組合の集会では、20年代末からの大不況がそろそろ終わるのに、出版社は不況を理由に原稿料を上げない、という主張が行われている。また、この時代に、コミック出版社が、原稿料として振り出す小切手の裏書に「すべての権利は会社にある」と記入し、米国の著作権ルールではそれが威力を発揮して、『スーパーマン』の初代作者たちの訴訟にも発展することになる。そんな関連場面も描かれている。
本の注釈によると、必ずしも実際の歴史の通りではない内容のようだが、かなり長文の注釈も含めて、歴史の勉強になる。
というわけで、読めば読むほどマンガという社会現象を考えるに貴重なテキストだと思われるので、今回試験的に学生に翻訳させ、発表してもらった。中国からやってきた張さんは、じつに真面目な学生で、英語力もありそうなので、彼に頼んだのだが、驚くほどよく調べ、出てくる作品の画像も集めて、非常によい発表をしてくれた。もったいないので、もう一回やってもらうことにしたが、こういうゼミをもっとやってもいいかもしれない。自分の主題に関係なさそうなものでも、きちんと調べて発表するって、すごく大事だと思う
というか、僕がもっと外国語に堪能ならとっくにやってないといけないことだろう。かつて自主ゼミでは学生たちの一部がウィル・アイスナーのマンガ論を原語でやっていたが、僕はドロップしてしまった。今回も、辞書片手に作品と注釈を読むのが、かなりしんどかった。面白いから読めるけど、毎回こんなことはできない。英語はまだしも、フランス語なんつったらお手上げだし。学生が僕に教えてくれる、ってのがいいんだけどなあ。