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夏目房之介の「で?」

志ん生、金馬、円生

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今日は、とっておきのビデオテープを発掘。久しぶりに、古今亭志ん生「おかめ団子」、三遊亭金馬「薮入り」、三遊亭円生「百年目」を観た。残念ながら志ん生のデキはそれほどよろしくないが、金馬の「薮入り」は大好きだったし、やっぱり凄い。1961年の、亡くなる数年前なのだが、非常にしっかりした噺で、子供にもわかりやすい芸だった。

長じてからは、子供への思いがわかるようになったせいか、笑いながらも泣けてしょうがない噺だ。今観ても(というか今だからか)泣けてしまう。久しぶりに薮入りで帰ってくる息子への両親の思い、息子の気持ち、堪能した。

で、こないだから聴きたかった円生の「百年目」だ。いやああ、やっぱり凄いっす。何といっても、元来説教臭い芸の円生が、番頭の嫌味な説教の厳格さと、旦那の柔らかで優しい説教を続けてやる。と同時に、粋な遊び(アスビと読む)の華やかさとおしゃれ感も同時に見せてくれる。話している言葉の途中で、なぜか必ずお茶を飲む。

そして最後、旦那の、苦労人で遊び人で、かつ物のわかった人柄の説教に、やっぱり泣けてくるのだ。ほぼ旦那のしゃべりだけの終わり頃、番頭は動作と表情しかないにもかかわらず、彼の気持ちがリアルに迫ってくる。叱られると思っているところに、むしろ謝られ、来年は店を持たせるからと約束されて「ありがとうございます」と頭をすりつける番頭の頃には、もうこっちは笑い泣きだ。いや、素晴らしい。

噺を落として円生が頭をさげたときには、思わず「うまい!・・・うまいっ!」と二度叫んでしまったよ。てなわけで、幸せな時間でした。

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