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夏目房之介の「で?」

出版文化?

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「出版ニュース」09年1月号のコラム「ブックストリート 流通」の項に、長岡義幸「「出版文化」なるものに対する違和感」という記事があった。
12月、出版労連主催、佐野真一氏らをパネラーとして「出版界を元気にしたい! 私たちは読者に何を届けるのか」というシンポがあり、参加した長岡によると〈一部のパネラーを除き、面白い話を聞くことができた〉が、〈かんじんの産業的な苦境をどう打開するのかという方策は見えてこなかった〉という。〈主催者の問題提起のゆえか、「出版文化」の復権のような精神論に傾き、産業問題からはどんどん遠ざかっていってしまったからだ。〉
長岡は主催者の問題意識に疑問を投げかける。彼によると主催者からこんな発言があった。

〈ぼくらが出会いたいのは本を読むという読者であって、消費する人、消費者ではない。郊外型の複合書店に並べられている本、こういう本を作っていて、これが果たして出版文化といえるのか。出版文化はどうなって行くのだろう〉

ああ、やっぱりね、と思わせる言葉で、長岡同様僕も〈心底がっくりきた〉。出版の外の産業からきた人が呆れて言葉もなくなるだろう事態は、今もまったく変わっていないらしい。この手の「出版人」はいまだに読者と消費者が別のものだと根拠なく信じ込んでいるのだ。こうした部分では再生の議論は出てこない。長岡も〈いまだにそんな位置にとどまっていたら、産業再生など夢のまた夢である〉と書いている。僕もそう思う。沈没はまだ続くだろう。

新年早々ハードな話題で申し訳ないが、出版志望の学生が今でも多いので、そういう人はちょっと考えたほうがいいと思って紹介した。もっとも、このご時勢、募集そのものがほとんどないかもしれないけどね。本当にやりたかったらフリーになって経験積んで時機を見てやればいいし、そのほうが結果は現実的かもしれないと思う。

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