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【書評】『遺伝子医療革命』:身体の中にある未来

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日本放送出版協会 / 単行本 / 384ページ / 2011-01-21
ISBN/EAN: 9784140814550

ヒトをヒトたらしめているのは、DNAにほかならない。そして我々は、自分たちのDNAの配列情報を知った、初めての生物種である。未来が記述された指示書とでも言うべきゲノムを、自分自身が知るということは、どのような変化をもたらすのか?

本書は国際ヒトゲノムプロジェクトを率いたトップ・サイエンティストによる遺伝子医療の最前線をレポートした一冊。まだ先の話だと思っていた遺伝子医療は既に始まっており、我々は、これまでの常識を覆す医療革命の時代へと突入しているのだ。

◆本書の目次
 序章 もう、知らないではすまされない
 1章 未来はとっくにはじまっている
 2章 遺伝子のエラーがあなたに出るとき
 3章 あなたの秘密を知るときがきた?
 4章 癌はパーソナルな病気である
 5章 人種と遺伝子
 6章 感染症と遺伝子
 7章 脳と遺伝子
 8章 老化と遺伝子
 9章 あなたの遺伝子にふさわしい薬をふさわしい量で
10章 一人ひとりが主役の未来へ

DNAの配列情報は、人種によって驚くほど似ているという。ヨーロッパ系、アフリカ系、アジア系の人びとのDNA配列を比べてみても1000文字に4文字程度の違いしかないのである。そしてこのDNA、どういう運命のいたずらか、ミススペルとも言うべきエラーをたびたび引き起こす。それが癌をはじめとする、さまざまな病となるのである。

このDNAの解明によってもたらされる変化は甚大だ。本書では、世界中の情報アクセスに革命をもたらせた有名企業の創業者によるエピソードが紹介されている。彼は自分の遺伝子検査を行ったところ80歳までにパーキンソン病になる確率が74%と診断された。当人は、その可能性を少しでも減らすような暮らし方を選べると前向きに捉えていたが、皆が皆このような受け入れ方をすることができるのだろうか?

もとい、この種の情報を知りたくないという人もいるだろう。ちょっと早めの癌告知のようなことを望まない人もいるだろうし、その内容にもよる。ちなみに、多くの人にとってその知りたい度は下記のような方程式であらわすことができるそうだ。

知りたい度=リスク×負担×介入

そのほかにも、問題は多岐にわたる。例えば、個人情報を管理するセキュリティの問題、遺伝情報による差別の問題、保険料の概念はどのように変化するのか。また、遺伝子による特許を取得している企業もあり、その是非が問われておりその事例も紹介されている。

その一つ一つの問題や限界を慎重に提示しながらも、本書の姿勢はどこまでもポジティブである。間違いなく言えるのは、時代はすでに動き始めているということだ。我々は自分の体の中に埋め込まれたタイムカプセルを、開ける時が来たのだ。その読み方を学び、人生に活かす方法も、ひょっとするとDNAに記述されていた情報なのかもしれない。

病気や死というのものは、運命づけられた受動的なものなのか、能動的に接することができるものなのか。新たな向き合い方を考えさせられる一冊である。

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