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【書評】『どうすれば「人」を創れるか』:アンドロイドになったブログ

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著者: 石黒 浩
新潮社 / 単行本 / 217ページ / 2011-04
ISBN/EAN: 9784103294214

アンドロイドと言えば、今やすっかり携帯OSの代名詞となっているが、もともとの意味は「人間酷似型ロボット」のことである。そのアンドロイドの可能性、ロボット工学にとどまらず、認知科学や脳科学や哲学とも深く結びついているそうである。本書はアンドロイドの研究を通して「人間とは何か?」、「自分とは何か?」を探求した一冊。著者は大阪大学のロボット工学者、アンドロイド研究の第一人者でもある。

◆本書の目次
プロローグ
第1章  日常活動型からアンドロイドへ
第2章  遠隔操作型アンドロイドを創る
第3章  サロゲートの世界
第4章  アンドロイドになる
第5章  ジェミノイドに適応する
第6章  ジェミノイドに恋をする
第7章  実体化するもう一人の自分
第8章  人を超えるアンドロイド
第9章  人間がアンドロイドに近づく
第10章 人間のミニマルデザイン「テレノイド」
エピローグ

ロボットにおいて重要なのは「見かけ」と「動き」。そのうち「見かけ」については、驚くほど研究の対象になってこなかった。人間とロボットは異なるものという先入観から、多くのロボットは人間とは一線を画したロボットとしてデザインされてきたのである。そこに大きな疑問を持った著者は、人間にそっくりなロボットを作ることへ邁進する。そうして出来あがった人間そっくりのアンドロイドと、そのモデルとなった人物とが対峙することで見えてきたもの、それが本書の骨子である。

アンドロイドとの向き合い方、その視点がユニークである。一つ目は遠隔操作型アンドロイドの場合、つまり一人称での視点である。映画『アバター』のようなものを想像してもらえれば、わかりやすいだろう。この状況への適応、すなわち操作方法がうまいのは、美人と役者である可能性が高いという。本書において、遠隔操作をする際に、操作する側がどのような視点で見ているかという実験が紹介されている。「相手の顔」、「自分のアンドロイドの顔」、「双方が話している状況がわかるもの」という3つのモニター映像のうち、操作が上手な人物は、自分のアンドロイドの顔を見ていることが多かったのである。これは、自分のアイデンティティが、他者からの見え方に依存している割合が高いということを、意味するのではないだろうか。

二つ目は二人称での視点、つまり自分のそっくりのアンドロイドと正面から向き合った時にどのような感情が呼び起こされるのかということである。本来は矛盾するこのような状況が作られることにより、自分で自分を説得するといったシミュレーションを行うことが可能になる。人の多くはアンドロイドを自分の理想像のように捉える傾向にあるそうだ。それゆえに、自分自身がアンドロイドに説得される可能性は、非常に高いそうである。また、この手法を応用することで、教育などの分野でも新たな利用法が生まれる可能性も高いという。

しかし、このような研究も、五年程度経過すると問題が生じてくる。著者自身の老化により、体型や顔の皺などに変化がおき、アンドロイドと似なくなってきてしまったのである。ここで、著者のマッドサイエンティストぶりが発揮される。アンドロイドと自分の差異を埋めるために、アンドロイドを直すのではなく、自分自身の顔を美容整形によってアンドロイドに近づけてしまったのである。確かに、アンドロイドの修理に三百万程度かかることを考えると経済的ではあるが、この研究者魂には頭の下がる思いである。

本書を読んで感じたのは、アンドロイドを作るということと、ブログを書くという行為は非常に近いのではないかということである。例えば、ブログを書くということは、一人称の目線でブログというアバターに遠隔操作を行い、「意識」、「感情」、「心」を入れ込んでいくようなことと言えるだろう。また、書いたブログを推敲するという行為は、ブログを通じてもう一人の自分と対話するということでもある。程度の差こそあれ、著者の美容整形だって、笑いとばすことはできない。自分の場合に置き換えた場合、ブログで形成されているであろう人格につられて、変な本ばかり探して読んでいるという側面は否めない。書いているブログによって、自分自身が規定されるという一面は、確かに存在するのである。

そういった意味で、本書は多くのブロガ―にとって有用な情報も多い。ブログだって一種のアンドロイドなのである。以上、アンドロイドがお送りいたしました!

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