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【書評】『大局観』:大局観をどのように活用するのか?

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著者: 羽生 善治
角川書店(角川グループパブリッシング) / 新書 / 234ページ / 2011-02-10
ISBN/EAN: 9784047102767

将棋棋士 羽生善治氏による「大局観」をテーマに書かれた一冊。ここ半年で羽生氏を題材に書かれた本を読むのは四冊目である。毎度、毎度、こうして羽生氏関連の本に魅かれるのは、氏の持つ類まれな「自己説明能力」ということに尽きるのである。

本作における最大の特徴に、事例の多彩さということが挙げられる。これまでの羽生氏の本では、ビジネスマンに有用な話材においても、説明は将棋盤の上を逸脱せず、あとは察してくださいというスタンスが見受けられた。しかし本作では、「今北純一」「アポロ計画」「動的平衡」「視聴率」「ハゲタカ」「松下幸之助」「長嶋茂雄」「手塚治」「空海」「アバター」「ジャック・マイヨール」「マーク・ブキャナン」「ブラックスワン」など、説目に使用されている題材が、実に多岐にわたる。羽生氏自身が執筆する著書も、ここ半年で三冊目。インプット/アウトプットともに充実している様子が伺える。

◆本書の目次
第一章:大局観
第二章:練習と集中力
第三章:負けること
第四章:運・不運の捉え方
第五章:理論・セオリー・感情
特に注目なのは「知識とは」というテーマで書かれている部分である。情報社会と言われ、洪水のように莫大な量の情報や知識とどのように対峙するかということに言及している。情報や知識を無数の食材に例え、まず捨てることが肝要と説く。これは多い選択肢の中から選ぶ方が後悔しやすい傾向にあるからだそうである。そして、新たな料理が作れるものを拾いにいく。いわゆる「大局観」とは、空間上に広がる情報の集約化を、素早く、完成された料理のように捉えられること、また、その後の局面を文脈として見据え、時間軸にも広げられることのようである。

「大局観」では常に「終わりの局面」をイメージするそうである。そんな羽生氏も、棋士人生としての「今後の局面」については、常に無計画、他力志向と宣い、突き詰めると「結論なし」というところで、本書を締める。棋風さながらの終盤に繰り出す妙手。まさに、「羽生マジック」である。
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