【書評】『チョコレートの世界史』:チョコレートの社会的な味わい
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著者: / 単行本 / 225ページ / 2010-12
ISBN/EAN: 9784121020888
だれもが甘い思い出を持つチョコレート。そんなチョコレートの歴史は、近代成立の歴史でもある。本書は、大西洋三角貿易、市民革命、重商主義、マニュファクチュア、戦争と歩んできた世界の歴史を、チョコレートとともに追いかけるという精力的な一冊である。
◆本書の目次
序章:スイーツ・ロード 旅支度1章:カカオ・ロードの拡大2章:すてきな飲み物ココア3章:チョコレートの誕生4章:イギリスのココア・ネットワーク5章:理想のチョコレート工場6章:戦争とチョコレート7章:チョコレートのグローバルマーケット終章:スイーツと社会
チョコレートの原料であるカカオは神々の食べ物と言われ、世界各地に広がる間に、飲み物になったり、薬品になったり、貨幣として使われることもあったそうである。チョコレートは原料のカカオ栽培から加工食品の製造まで非常に手間のかかる食べ物である。そして、手間がかかるということは、すわなち労働力を必要とすることを意味する。労働力が投入されるプロセスは大きく分けて「原料生産のプロセス」「加工生産のプロセス」の二つ。そして、その二つのプロセスをつなげる役割を果たしたのが「貿易」であった。
◆原料生産のプロセスアステカ王国の時代、カカオ生産の労働力はインディオであった。やがてアステカ王国が滅びインディオ人口が減少すると、不足した労働力を補うために、大西洋三角貿易を通して黒人奴隷が移入されるようになったと言う。カカオの生産には「褐色の涙」と称される、実に暗い過去があるのだ。のちに、奴隷貿易は廃止され、貿易の仕組も保護貿易から自由貿易へ変わると、カカオの値段は一気に下がり、これが世界中にチョコレートが広まるきっかけとなった。◆加工生産のプロセスかつてポルトガルの宮廷には「チョコラテイロ」という担当官がおり、スペシャリストとして加工を行っていたと言う。17~18世紀になるとカトリック諸国でカカオ豆の摩砕を専門にするココア職人のギルドが形成されてきた。さらに19世紀に入ると、イギリスでキャドバリー家、ロウントリー家というクェーカー教徒の一派が良質なココアを販売して名を馳せ、成長していったそうだ。クェーカー教徒はプロテスタントの一派であるが国教徒に属することができず、弾圧を受けていたため、商業に邁進せざるをえなかったようである。このクェーカー集団が、やがて資本主義的生産体制に移行し、大規模化した工場で大量生産されるようになったと言う。
ちなみに、ロウントリー社のヒット商品でもあるのが、赤いラッピングペーパーでおなじみの「キットカット」。そのキットカット、過去に青いパッケージで出された時代があるという。第二次世界大戦中のことだ。そのパッケージには「チョコレート製造に使うミルクを充分に入手できないため、平和な時代に召し上がっていただいていたチョコレート・クリスプを、いまは作ることができません。」と書かれていたと言う。青いパッケージには、平和な時代への願いが込められていたのだ。チョコレートの社会的な味わいは、決して甘さだけではないのである。
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