スピーチで一度使うとあんちょこ無しではいられなくなる怖いモノ(プレゼンの心得編)
結婚式のスピーチでお馴染みの場面。
親戚の叔父さんがマイクの前でおもむろにタキシードの懐から小さなメモを取り出し、堂々とチラ見しながらスピーチをするというものです。
幼かった頃、「ピアノは暗譜なのに。なんであんな短い文章を覚えられないんだろう」と思っていました。
冷や汗をかきかき戻ってきた叔父さんに理由を聞いてみたところ「間違えると大変なんだよ〜。一生に一度のことでしょ〜。」と言います。
知人の結婚式で、スピーチを頼まれたときのこと。
事前の打ち合わせでアテンドさんに
「出来るだけ細かい台本を作らないでください。できればメモも見ないほうが良いです。そのほうが気持ちが伝わります。」と言われたことがあります。
本当は、メモを見ないで話した方が良いのです。
それなら、というので、最近「プロンプター」という便利なものがあります。
プロンプターと言えば、芝居やオペラのときに、台詞を見えないところからささやく人のことを言っていました。オペラでは、プロンプターさんの入る箱のようなものさえ設置しているほどなのです。
最近のスピーチで活躍しているプロンプターは人間ではありません。
オバマ大統領や、安倍総理がスピーチしているとき、演台の上に透明な板ようなものが立っているのを見たことがあると思います。これがプロンプターです。
このプロンプター、使う人はどんな短いスピーチでも必ず使います。それほど、一度使うと離れられなくなるものなのです。
プロンプターは、聴衆の方からは透明な板にしか見えないのですが講演者の方からは文字が見えるようになっています。
大きな舞台では、舞台の下に巨大なパソコンのようなものを何台も設置することも出来ます。
講演者はそれを見ながら話すことができる「あんちょこ」というわけです。
ただ、このプロンプター、じつは見ながら話すのはちょっと難しい点もあります。
安心だからとしっかり読んでいる人がいますが、聴衆から見るとプロンプターは透明で見えないので、講演者の目だけが右から左に動き続けて実に不気味なのです。また、明らかに聴衆を向いていないのに、文字を見るためにジーっと凝視していたりすることもあるのも、怖い感じがします。
こうなると、まだ結婚式の叔父さんのほうがマシです。
メモを出してチラ見するだけなら、聴衆が叔父さんの行動を理解できるので変な不安がないですし、「堂々とカンニング」していて、潔いのです。
プロンプターの使い方は、出来るだけほぼ記憶して、画面を視界の端でとらえながらポイントだけチラ見する程度にしておくべきです。そうしないで、べったりと頼っていては、聴衆への印象がかえって悪くなります。
そして、一番の難しい点は、「この人はこっそりあんちょこでカンニングしたい人なのね」という、「ちょっとずるい人」な印象を無意識に持たれてしまうということです。
これは、特に政治家や経営者にとっては、かえってマイナスではないかと思います。
本来なら、真摯に仕事に取り組んでいれば、一つ一つ見なくても言葉は出てくるはずです。
プロンプターは便利なものかもしれませんが、使うなら、ぜひ、ほぼ記憶し、リハーサルし、見る練習もしてからスピーチに臨んだほうが良いと思います。