歌のテクニックと感性は時代とともに変わってくる
声楽をやっていると、イメージどおりの音色を出すための声のコントロールとはいかに難しいか、身にしみてよく分かります。
自分の声なのに、思い通りにならない声にもどかしささえ感じます。
2011年11月12日合唱団コール・リバティストの練習を行いました。
発声練習のとき、グリッサンド(音のすり上げ、ずり下げ)の音程がなかなか定まりませんでした。
「特に難しいのは、高い音に向かって音を弱くしていくことです。」
と、秋島先生はおっしゃいます。
普通に何もしていないナチュラルな状態であれば、高い音は強くしか出せないものです。訓練されていない人だと、苦しそうに締め上げたような声になってしまします。
しかし、作曲家は自分のイメージを表現するために、高い音に向かってディミヌエンド(だんだん弱く)をかけたりする。そういうとき、「高い音は強くしか出せないんです」というのは困りますね。これができるようにするのがテクニックなのです。
ただ、イタリア・オペラ絶頂期の頃は、そういうことは少なく、たいていは歌いやすいように書いてあります。歌いやすいことが素晴らしいことだという時代があったのです。
イタリア・オペラの代表的なものは、音が高くなってP(ピアノ=弱く)になっていくというのは多くはなく、一番高いクライマックスはf(フォルテ=強く)になっています。
一番高いところで一番美しい声を出すというのが美学であったのです。
「カルメン」のドン・ホセが牢獄で歌うアリア「花の歌」などは高いB(ベー=シのフラット)をPP(ピアニッシモ=とても弱く)という指示があります。
カルメンは100年前のオペラで、当時テノールはG(ゲー=ソの音)は実声で出していなかったそうです。ファルセットという裏声を使っていたのですね。
当時はまだ、GやA(アー=ラの音)を実声で出す技術がなかったのです。
時代によって声楽のテクニックも発達して、今ではPPでBを出すのはもう当たりまえになっています。
そういうことで、今は高い音でP(ピアノ=弱く)やディミヌエンド(だんだん弱く)ということも珍しくはありません。
トレーニングの方法もいろいろあり、教える先生によって一人ずつ違うくらいです。リバティストでは何人もの先生が来ていますから、面白く、とてもためになります。
この日は、新しい曲「海の構図」より「海女礼賛」、「都会」より「ふりむくな」「子守歌」を練習しました。
中田喜直の傑作を次々と歌えるのは、やはり日頃のトレーニングで技術力をアップしているからです。
これらの曲は、普通にやっているだけではなかなか人に聴かせられる演奏にはならないんですよ。
皆さん、良く頑張っています。
来年1月15日には鎌倉芸術館で「都会」全曲を歌わせていただけます。
良い演奏になるといいですね。