2020年までに「LinuxのRed Hat」からの脱皮ができるか
本日はレッドハットの事業戦略説明会に参加。基本的にビジネスは成長を続けており、2020年に向けて強気な戦略が目立つ感じだった。
「2020年に日本で1番使われているOSがRed Hat、開発基盤がJBoss、クラウドを支えているのがRed Hatのクラウド・マネージメント、この3つの金メダルを目指します」と言うのは、レッドハット株式会社 代表取締役社長の廣川裕司氏。Red HatがLinux OSとミドルウェアのJBossを提供しているのは知っている。もう1つのクラウドのところについては、OpenStackの領域ですでにリーダー的ポジションにあるとのこと。
多くのITシステムのインフラにRed Hat Linuxが利用されているのは間違えないだろう。保守的な大手の金融機関や自動車会社などでも、いまやLinuxを使うことに躊躇はない。そんなLinuxでビジネスを拡大してきたRed Hatは、いまやOS、ミドルウェア、仮想化、クラウド、ソフトウェア・デファインド・ストレージという5つの製品群を提供する。
これらで力を入れるのが、クラウドであり、IoTの世界だと。そしてIoTから生まれるビッグデータのハンドリングも行う。製品はオープンソースというのがベース。いまや世界には100万人のOSSの開発者がおり、これは極めて強力だと廣川氏は言う。この強力な開発体制がないと、今後のクラウド、アジャイル、DevOps、ソーシャル、IoTという大きな変化について行けない。加速する変化のスピードについて行けるのはOSSしかないと言う。実際、ここ最近のITイノベーション的なテクノロジーの多くは、OSSから生まれている。そういう意味では、この指摘は正しいだろう。
とはいえ、OSSであること業界標準であることが、ビジネスの優位性になるのかは少し疑問なところもある。OSSであれば、そのテクノロジーの優位性は他のベンダーとも共有しやすい。逆に自社だけの優位性を出そうと独自性を発揮すると、それは標準じゃないということでユーザーから嫌われる。バランスをとりつつ優位性を発揮するのはなかなか難しいところだろう。
たとえばRed Hatが展開するPaaSのOpenShiftは、Cloud Foundryではなく独自のものだ。Cloud Foundryが業界標準ではないが、多くの有力ベンダーが担いでいることもあり実質的に業界標準になりつつある状況だ。Red Hatは現時点ではこのCloud Foundryに合わせるつもりはないようだ。独自に展開する。しかし、市場のプレイヤーから意見をもらうコミュニティも作るというのが現在の方向性のようだ。このあたり、独自でいくのか業界標準的なものに合わせるのか、タイミングなど含め選択はなかなか難しい。
また、レッドハットが2020年までにNo1になるには、越えるべきハードルがあるとも思うところ。それはLinuxのディストリビュータというブランドを変えること。OSのLinuxが各所で使われる状況は今後も続くだろう、ミドルウェアでもJBossが採用されるシーンも増えるかもしれない。とはいえ、本格的にIoTなりの世界に入っていった際には、そういったソフトウェアだけのアプローチでは厳しい。ソリューションを提供するベンダーとして、顧客企業がレッドハットをどう見てくれるかが重要だろう。製品ポートフォリオがあるだけでなく、レッドハットに顧客が次世代のITのことで相談したくなるのかどうかだ。
そういう面では、レッドハットは日本での存在感としてはまだまだ弱い。とはいえ今年度の戦略としてパートナーは倍化して1,000社を目指し、OSSにバイアスしたようなリセラーを育てる。仮想化のところでは、コンテナISVエコシステムを拡大し100社体制にする。クラウドパートナーもいまは50社くらいだが、それも倍増する。OpenStackなどのクラウド認定技術者も1,000名に増やすと急速に組織体制、パートナー体制を強化するとのこと。こういったことが功を奏すれば、Linuxやミドルウェアの製品ベンダーからIoTやビッグデータ活用のソリューションベンダーの顔も出来上がってくるかもしれない。
数年で、「LinuxのRed Hat」が新しい顔を持つことができるのか。2020年まで、残された時間はそれほど多くはない。