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電子書籍は売れない、ならどうする?

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 かれこれ1年半ほど、電子書籍のビジネスに携わってきた。昨年はブームで、今年はやっとリアルなビジネスになってきたように思う。

電子書籍が売れない理由

 とはいえ、電子書籍は売れない。海外の情況はちょっと違うかもしれないが、日本はかなり厳しい。もともとコンテンツに力があれば、紙だろうが電子だろうがそれなりに売れる。けれども、普通のレベルのコンテンツの場合は、電子にしたからといって当然売れるわけではなく、むしろ苦労して電子化しても早々に埋もれてしまいかねない。

 売れない理由として、まずユーザーサイドの課題としては、本命と言えるような電子書籍のリーダー端末がないことが挙げられる。個人的にはSONY Readerを押したいところではあるが、いかんせんReader Storeには本がまだまだ少ないし、なんといってもネットワーク機能がないことが、ちょっとこれからの「電子書籍ならではの活用方法」をスポイルしているように思う。

 それじゃあ、シャープのGALAPAGOSがあるじゃないかと。これなんだけど、なんといっても購入しにくい。ヨドバシなどの量販店で購入しようとしても、店頭のカウンターでシャープのサイトに接続して、オンライン決済するのだ。その上で、配送じゃなく店頭で受け取れるという、なんともややこしい仕組み。これは、なんとかならないものか。

 あと、ハードウェア的には、GALAPAGOSは電池の持ちが今一なのも気になる。そのぶん、液晶で、カラーできれいってことなんだけれど。それと、ちょっと面倒な認証がいろいろあって、ユーザーには優しくないなぁとも感じるところも。レスポンスはそこそこで、使い心地ががいいだけにちょっと残念。ならば、iPadやAndroidのタブレットがあるじゃないかと。たしかにこれらもいいのだけれど、本を読む端末としてはちょっと重たい。それと、読書用の端末だと考えると値段が高い。そうそう、GALAPAGOSもちょっと価格は高いイメージがある。

 制作、販売サイドの課題は、これまた本命のマーケットがよくわからないってこと。電子書籍の販売の仕組みはいま、国内にはたくさんある。どのサイトにどの形式のどの本があるかは。ユーザーからはよくわからない。それぞれのサイトに行って検索して初めてわかる。で、多くの販売サイトの検索機能がそれほど賢いと言い難い。なので、本がなくて見つからないのか、検索がタコだから見つけられないのか、自分の探し方が悪いのかがわからない。そんな情況の中、出版社も電子書籍に今ひとつ力を入れきれないでいるのではないだろうか。なので結局は本も増えないし、ユーザーも増えないし、という悪循環に陥っているような。

 電子書籍のフォーマットについては、EPUB3の登場でこれが本命かなと思うところまで来た。けれども、現状は期待のほうが先行していてまだこれが活用できるリーダーがない。表示の面では表現力も高まり、マルチメディア的な機能も実装できいいところまできているのだけれど、DRMのところには課題がある。各社が独自にDRMをかけようとすると、専用のリーダーが必要になり、これはコンテンツ提供側にとっても手間の増える話しだし、ユーザー側もちょっと混乱しそうだ。ということで、ユーザーにとって使いやすい電子書籍読書の環境が登場するのには、まだまだ時間がかかりそうな気がするのだった。

売るための工夫が必要

 とはいえ、徐々にではあるけれど、これらの課題は解決され、情況は改善するはずだ。それを待ってから市場参入するという発想もあるし、その前から参入してノウハウを積むという考え方もある。いまのところ自分たちは後者を選択。ということで、なかなか電子書籍は売れない中でいろいろと工夫をしなければならないわけだ。

 紙の本と比較して、電子が明らかに不利なのは、売ることに関わってくれる「手」が圧倒的に少ないということ。小さな出版社でも、紙の本を出版し流通に載せることさえできれば、各地の本屋さんなりに自動的に配られ、店頭に並べてくれ、ある意味勝手に売ってくれることに。電子の場合は、よっぽど大手の出版社の取り組みでもないかぎり、売ることからPRすることまで、全部自分たちでやらなければならない。仮にアプリ化してAppleのAppStoreに掲載したとしても、人目に触れるのは、新しいコンテンツを出したほんの一瞬だけだろう。そうなれば、なんらか継続的なPRの方法を考えて露出し続け、読者候補の人たちの目に何度も触れるようにする工夫が必要だ。

 そこですぐに思いつくのは、いまならFacebookやTwitter。これらの活用は電子書籍の出版では必須じゃないかと思う。それと、流通コストがかからない、印刷コストがかからないぶん、そこで浮いた費用を広告宣伝費に突っ込む考え方も必要だ。電子書籍の利益率が高いのだと言っても、売れなきゃ意味がない。なので、売るために広告することは、最初の企画段階から真剣に考慮しておく必要がある。このあたり、なかなか売れない現実の中で費用捻出するのは大変だけれど、ビジネスとして回していくならば、当初からそういう要素が必要なことはきっちり考慮しておくべきだ。

 もう1つは売らなくても良い仕組みを考える、というのもある。スポンサーを付けるのも1つだ。また、1冊単位で売るのではなく、年会費みたいなものでユーザーに支払い続けてもらい、その中で電子書籍を流通させる方法もある。そうなれば、本を売るためのプロモーションではなく、会員を集めるためのプロモーションを考えればいい。この課金方法のほうが、個々の売上に左右されないので、ビジネスの計画も、戦略も比較的立てやすいのもメリットだろう。

いままでの常識をいかに飛び越えられるか

 というように、電子書籍のビジネスを楽しくやっていくためには、紙の時の発想から離れてまったく新しいビジネスモデルを考える必要がある。ストアを横断するようなソーシャル本棚的なサービスも、より読者に本を読んでもらうためには、もっともっと活用できそうだ(ここでは詳細は語りませんが)。とにもかくにも、世の中の人にもっと電子書籍を身近に感じて欲しいなと思っており、そのためのささやかな方策として。日々、電車の中ではSONY Readerで本を読んでいる姿を見てもらおうとしているのだった。

 もう1つの方策として、eBookProというプロジェクトを立ち上げ、いま、いろいろと試行錯誤しながらなんとか電子書籍をビジネスとして成立させられないかと工夫も始めている。売れない中にあっても、最近では月に数冊ペースで電子書籍を世に出したりもしてチャレンジしている情況だ。売れないからと言って市場から電子書籍が減ってしまえば、それはまた市場を沈ませることになる。面白い、電子ならではの企画を考え、今後もチャレンジするつもりだ。

電子書籍プロジェクト eBookProFacebookページもあります)

※2011/6/23 誤字を訂正して、少し加筆しました

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