世界経営者会議(3) 1日目:iRobot コリン・アングル会長・CEO 製品中心の会社は、マーケティング力も卓越していた
世界経営者会議レポートの続きです。
お掃除ロボット「ルンバ」を開発してるiRobotを創業したコリン・アングル会長・CEOが初日に登壇。私も個人的に楽しみにしていた講演の一つでした。
【講演より】
本当の意味でのロボット、「日々の生活の中に入ってくるロボットを作りたい」と思い、創業して24年が経った。
日本市場に参入して10年間、日本市場では比類ない成功を収めている。
お掃除ロボットのような新市場においては、競争からはイノベーションは生まれない。お客様の価値をいかに作り出すかが重要だ。たとえばお掃除ロボットで人々が必要としているのは「きれいになった床」だ。人に似たロボットではないし、吸引力でもない。吸引力を大きくするあまりに背が高くなって、ソファの下に入り込めないのであれば本末転倒だ。
新規ビジネスにおいては、製品が提供するコストあたりの価値が、最小限の顧客からの支持に必要な閾値を超えれば、一気に普及する。(New capabilities unlock new opportunities to corss relevancy threshold)
解決すべき実に多くの問題がある。会社はこれらを解決するために存在するのだ。
【質疑応答より】
質問:人工知能についてはどう思うか?
→もっとインテリジェンスが必要だ。プロセッサーも賢くなる必要がある。クラウドに接続されるようになれば、限界のない演算力を手に入れることができる。IBMのワトソンのような能力を、何百万台ものマシンで使えるようになる。
(質疑応答で、「人は新しいものが出てくると否定に走りがち」という話題に対して)
→日本でロボットを導入した時は、反応はポジティブだった。実は他の国ではネガティブだった。日本ではロボットが生活の中に入るのには違和感がないようだ。
(「日本の電機メーカーはiRobotより先にお掃除ロボットを作ったにも関わらず、『ダメだ。怪我をしたらどうする?』と反対され、発売されなかった」という話を振られて)
→ルンバも開発の際には複数の安全装置を組み入れたりして、リスク防止をしてきた。
【所感】
楽しみにしていたコリン・アングルさんのお話しでしたが、とても学ぶところが多い話でした。
特に「人が必要なのは、キレイな床であり、吸引力ではない」というお話しは、セオドア・レビットが50年近く前に紹介した「人が欲しいのは1/4インチの穴であり、1/4ドリルではない」という言葉を彷彿とさせます。
講演ではお話しされていませんでしたが、実はiRobotは、当初14件の異なるビジネスに参入したものの、うまくいかなかったそうです。そうした中で成功したのが、ルンバと福島第一原発でも使われた原発用ロボットでした。
失敗が重なる中でも継続できたのは、「日々の生活の中に入ってくるロボットを作りたい」という信念でした。
iRobotは製品中心の会社です。ロボット技術も卓越しています。ただそれだけでなく、大きな意味でのマーケティングも卓越しています。
多くの企業において、マーケティング発想と製品技術発想は相反してしまう傾向にあります。その原因は、古くからの成功体験に基づくセクショナリズムや人間関係など、企業の中での組織や人の問題に起因することが多いように思います。
しかしコリン・アングルさんがおっしゃるように、マーケティング発想と製品技術発想は、相反するものではありません。本来、お互いに補完関係にあるべきものです。そして相互に補完し合うことで、企業は大きなパワーを発揮できます。
製品技術に優れる日本企業が、マーケティング思考を身につけることで、日本企業はまだまだ強くなるはずです。
マーケティング思考への転換はますます求められていることを再認識したセッションでした。