共感をエンジンとして成長していく、ライフネット生命保険
1月22日(金)に行なわれたライフネット生命保険・出口社長の講演を聞いて来ました。
ライフネット生命は、ご存じない方も多いのではないでしょうか?
実際、ある調査によると、認知度は低いにも関わらず、週刊ダイヤモンドが調査した「プロが選ぶ保険ランキング死亡保障部門」で第1位だそうです。
出口社長のお話しでは、1位の理由は、インターネット経由で保険を販売することで、セールスやマーケティング等の支出を最小限に抑えて保険の価格を半額で提供し、かつ、経営内容を全てガラス張りにして公開しているから、ということです。
また、ライフネット生命は日本で72年ぶりに生まれた独立系保険会社でもあります。
戦後に生まれた数多くの保険会社は、全て系列系だったのですね。
講演の冒頭で、出口社長が最初に示された3つの言葉が、印象的でした。
(1).森の姿をしっかりとらえなければ、木を育てることはできない
(2).風が吹かない時は、凧を揚げることはできない
(3).人間が望んだことは、99.9%実現しない
(3).については、異論がある方もおられるかもしれませんが、この後に次の言葉が続きます。
但し、望まなかったことは100%実現しない。
ご講演はこの3つの言葉に沿って、世界の中での日本の大きな動きを述べ、その動きの中でなぜライフネット生命が世の中に必要とされたのか、そしてどのようにライフネット生命が育っていったかをお話しされました。
深く広範囲なお話しでした。
その中で、特にライフネット生命に関して、印象的だった話をご紹介します。
1.調査によると、消費者が保険に望んでいることは、「安く」「分りやすく」「比較情報があること」の3つ。現在、これらを実現できていない保険が多いとのこと。
2.そこでライフネット生命では、自社のマニフェストを「どこよりも正直な経営を行い、どこよりもわかりやすく、シンプルで便利で安い商品・サービスの提供を追求する」と定めています。単なる理念に留まらず、人事考課もこれで評価しており、人事責任者は結構大変だそうです。
3.ガラス張り経営は徹底しており、「付加価値保険料率」(保険会社の手数料部分)を、日本で初めて公開しました。系列系の保険会社では、このような情報を公開しようとしても親会社の反対で実現できないため、非常に高い新規参入障壁を乗り越えて、72年ぶりに独立系保険会社として創業したということです。
4.同社は月率8%で成長しています。中国が年率8-10%の成長ですが、これを月単位で実現しているということですね。
5.ライフネット保険では定年はなく、30歳までが新卒扱いです。海外では、大学の学部を卒業した人達は、海外を放浪して色々と体験したり、大学院で勉強したり、と色々な経験をした後に会社に入ります。そのような異質で多様な体験をしてきた人達を求めているということです。
6.「保険料半額実現のためにセールスやマーケティングにお金をかけない」というのは徹底していて、一部地方を除き、TV CM等も行なっていないそうです。そこでブログや口コミでファンを増やそうとしています。講演では、出口社長はこのように話しながら、ライフネットを1枚で紹介したはがき大の紙を「好きなだけ取って周りに差し上げて下さい」と配っていました。講演等の依頼もどんどん引き受けておられるそうです。
7.創業当初、出口社長は「給料は高くできないし、保険のプロを集めなければいけないから、社員は65歳のリタイアした人達中心かな?」と考えていたそうですが、実際にはブログを見た若い人達からの応募が多かったそうです。新しい世の中を作っていく出口社長のビジョンへ共感したからでしょうね。
大量生産・大量消費の名残を残している20世紀型企業とは全く異なり、身の丈で共感した人達がゆるやかな繋がりで広がっていくという21世紀型企業の姿を見た思いです。
その出発点は、顧客に対する深い共感にあるのではないでしょうか?
講演の最後の質疑応答で、出口社長が語られた次の言葉が、心に残っています。
経営とは、人と違うことを考えることです。
しかし、それは奇異なことを考えるということではありません。
原理原則で考えるということです。
原理原則ではなく、世の中で当り前と思っている(しかし間違っているかもしれない)情報で考えることが、私達は多いのではないでしょうか?
未来の日本と世界をよりよくしたい、と真剣に考えておられる出口社長のお志にも、深く共感しました。
古今東西の様々なお話しを交えて講演される出口社長のお話しをお伺いして、教養がとても大切であることがよく分った、充実した2時間でした。
この講演は、毎月、嶋口・内田研究会が六本木にある日本マーケティング協会で開催しているもので、誰でも参加できます。
私は数週間前に、嶋口先生とお話しする機会があり、その場でこの研究会をご紹介いただきました。
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