電子書籍時代の出版は、どうなるのか?
オルタナティブブロガーの斉藤さんが「個人が印税35%の電子書籍を出版できる時代 - Amazon Kindleの衝撃」というエントリーを書かれています。
はてぶのブックマークも凄い反響です。
私のエントリーにもトラックバックして下さっています。(ありがとうございます)
「本を出版したい」という人達にとって、出版への障壁が下がるのは、素晴らしいことです。
一方で、電子書籍によって、著者と読者の間にある出版社・出版卸・小売り書店の大きな中抜き現象が起こるとしたら、出版業界にとって大きな衝撃です。
どのようなことが起こるのか、考えてみました。
私は、2008年に初めての自費出版をし、2009年に初めての商業出版をしました。
私の経験では、自費出版でも、それなりの品質の本を出すことは不可能ではありません。
実際、私が自費出版した際にも、多くの方から、「自費出版にしては、ちゃんとした出版社から出した本みたいですね」と言われました。
しかし、これは言い換えると、プロの編集者の眼を通っていない自費出版は、プロの品質を超えることはない、ということでもあります。
実際、その後の商業出版で、編集の方のプロのアドバイスは、まったくレベルが違うことを実感しました。
改めて考えてみると、出版社の編集者は、単に著者が書いた原稿を本に編集し直す、という単純な仲介作業だけを行っているのではありません。
著者が書こうとしている本が、読者にとってどのような価値があるかを見極め、本の方向性を著者と一緒になって考えたり、原稿を書く前の構成案に対してよりよい内容になるようなアドバイスをしたり、著者に様々な材料を提供したり、といった、高度なコンサルテーションも行っています。
私も、商業出版をした際には、編集者の方に大変助けていただきました。
一方で斉藤さんも書かれている通り、電子書籍はKindleのような電子書籍専用端末だけでなくiPhoneのようなスマートフォンなどでも読めるようになり、電子書籍が読めるマシンは数年以内に数億台の規模になります。
考え方を変えると、今まで縮小し続けてきた出版市場は、電子書籍が普及し読者にとっての利便性が高まることで、再び成長していく可能性もあります。
数十年後を考えてみると、本棚というものの存在自体がなくなるのかもしれません。ちょうど音楽が、大型のLPレコードがCDに代りライブラリーが小さくなり、さらにネットでの流通にシフトしてCD市場が縮小していったのと同じです。
今、目の前にある自宅の大きな本棚を見ていて、その未来の可能性を感じます。
しかし、現在の書籍が数年間で一気に電子書籍に置き換わることは、恐らくないでしょう。
一方で、電子書籍の普及の波は止められません。
著者の書いた原稿を、そのまま受け取って編集・印刷し出版卸に卸す、といった業務だけを行い、自身の変革ができない出版社にとって、電子書籍の普及は大きな危機かもしれません。
しかし、柔軟な変革の意志と、高付加価値サービス提供能力を持っている出版社にとっては、電子書籍の普及は、停滞していた出版市場が大きく変革し拡大していく中で、自社のビジネスを拡大できるチャンスとなる大きな可能性があります。
まさに、「オールドミドルマン」から「ニューミドルマン」への進化が求められているということなのでしょう。
そして、印刷・販売・流通といった「規模」のビジネスが必要な部分はネットで完結できるようになることを考えると、この変革の機会を活かせるのは、もしかしたら出版社というよりも、むしろ出版社の中で高度な編集能力を蓄えてきた個人の編集者なのかもしれません。
そして、出版社は、従来型の出版ビジネスは継続しながらも、徐々にコンサルテーションにシフトしていく企業体になっていくのかもしれません。
昨年、「GoogleやIBMの未来を方向付けた「顧客視点の事業定義」」で書きましたように、今こそ「出版社の事業とは何か?」を顧客視点で考え直す時期なのでしょう。
今後、ビジネスマンが自費出版する際には、まず電子書籍として出版し、その上で売れた本は出版社から本で流通、という流れが定着することも考えられます。
「本を出したい」というビジネスマンが商業出版する障壁も低くなるでしょう。
さらに、書店には、このような自然淘汰の競争を勝ち抜いた、高品質な書籍のみが並ぶようになるのかもしれません。