オルタナティブ・ブログ > 永井経営塾 >

ビジネスの現場で実践できるマーケティングと経営戦略をお伝えしていきます。

75%の人は、合理的に損得勘定できない

»

あなたは、買った住宅や家がズルズルと値段を下げている場合、損が出るのを承知でスパっと売却するタイプですか? 又は、「今売ると損が出るし、いつか上がるから、しばらく持っておこう」と判断を保留するタイプですか?

よくある状況ですが、このような場合に人間はどのように反応するかということは実は研究対象になっていて、「プロスペクト理論」という名前が付いています。

■ ■ ■ ■

例を挙げて考えてみましょう。

例1: 報酬をもらうことになりました。Aは確実に800万円もらえます。Bは1000万円もらえますが、くじ引きにより15%の可能性でゼロになります。あなたはどちらを選びますか?

例2: お金を支払うことになりました。Cは800万円必ず支払うことになります。Dは1000万円支払いますが、クジ引きにより15%の確率で支払わないですみます。あなたはどちらを選びますか?

調査によれば例1では全体の72%がAを選び、例2では78%がDを選んだそうです。

実は、期待収益(又は期待損失)を計算すると、Aは+800万円、Bは+850万円、Cは-800万円、Dは-850万円です。合理的に判断すると、例1ではBの方が得で、例2ではCの方がより少ない損失に抑えられます。つまり全体の3/4の人は、合理的な判断を行っていないことが分かります。

ここから分かることは、人は何かを得る際にはリスクを嫌い、何かを失う場合にはリスクを取る傾向にある、ということです。

■ ■ ■ ■

売り手と買い手の力関係で、一般的に買い手有利になるのも、これが一つの理由となっています。

人はものを「買う」(お金を失う)場合はリスクを取るようになり、例え値段が上下する状況でも時間をかけて積極的な交渉をして大きな値引きを勝ち取ろうとします。

一方で売り手(お金を得る)の場合はリスクを回避するようになり、将来的に値段が上下する可能性があってもなるべく現在の価格で交渉をまとめようとします。

同様に、企業が利益が上がっていない事業からなかなか撤退できないのも、同じ心理が働いている要因が大きいのです。

プロモーション戦略や撤退戦略を立てる際、このことを理解しておくと非常に役立ちます。

冒頭の投資などで損切り出来ないのも同じ理屈です。

「認知的不協和」を紹介したこちらのエントリーで述べましたように、首尾一貫して「自分は正しい」と思いたい人間の性質はここでも出ています。

■ ■ ■ ■

マクロ経済学では、個々の人間は合理的判断を行う存在、という前提で理論が構成されてきました。しかし近年、これが見直されてきています。経済学や経営の世界に心理学が入ってきたのも、必然かもしれません。

ところで、株式投資で大きな評価損を出している株を抱えていて、売却すべきかどうか悩んでいる場合、よく言われるのは「今、その株を持っていない状況で、新たに現在の価格でその株を買うとして、私は買うかどうか?」という基準があります。これは、我々がプロスペクト理論の呪縛から逃れる一つの方法でもあります。

ちなみに、冒頭の質問ですが、かくいう私も前者のケースが多く、75%の中に分類されるようです。

Comment(9)