IT中心産業への革新が始まった
製造業はすべてのモノがネットにつながる「IoT」により、ハードウェアとIT(情報技術)をどう融合させるかが課題となるだろう。
日本では、IoTを「ものづくりの復権」と結びつける人が多い。だが、シリコンバレーではITがハードウェア領域をけん引するものと捉えられている。モノからのデータが取り込まれ、多量のデータの分析・利用により新たな価値を生むという考え方だ。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、発電機からジェットエンジンまで作る世界有数のものづくり企業だ。そのGEが「2020年までにソフトウェア企業として世界のトップ10に入る」と宣言している。シリコンバレー郊外に新しいソフトウェア開発拠点を設立した。そこには1400人ものソフトウェア人材が働き、IoTのオープンソースアプリケーションが動くためのソフトウェアプラットフォームを開発している。マイクロソフト、シスコシステムズやアップル、グーグルといった米国を代表するIT企業から転職してきた人たちが中核を担っている。
高度なIT人材を採用できたのは、トップの決意があるからだ。GEの総帥であるジェフ・イメルトは、「代替プランはない。これをやり遂げるだけだ」と言い切る。
サービス業はどうか。この分野では、金融とITを組み合わせたフィンテックが産業革新をけん引していくだろう。シリコンバレーでは、フィンテックは「バンクからバンキングへ」と表現されている。バンク(銀行、金融業者)のためのITや新サービスの提供だけだった時期は終わり、あらゆるサービス業のためのバンキング(金融機能)の開発へと拡大している。
すでに、フィンテックは保険、証券、流通、不動産などの産業にも波及している。分散型台帳技術のブロックチェーンを契約関係に利用したり、複雑な規制への対応を自動化したりするような仕組みも生まれつつある。
フィンテックの特徴は、ITの専門家ではないベテランがITを中心に据えた事業創造に取り組む姿にある。例えば、クレジットカード会社や大手銀行の経営幹部だった人がフィンテック分野のベンチャー企業を立ち上げたり、規制官庁の幹部だった人がフィンテック分野のベンチャー・キャピタルを組成したりしている。経営トップのリーダーシップのもとにIT分野の人材が集合し、新たな産業のパラダイム(枠組み)が再構築されようとしている。
日本でも産業パラダイムの転換に危機意識を持つ経営者が増えてきたようだ。ITを中心に据えた事業転換は、システム部門のみならず経営者自身の課題だ。そのきっかけをつかもうとシリコンバレーを訪問する経営幹部が急増している。ITベンダーの情報に頼らず、経営者自身が源流の情報に触れる必要があると感じ始めたようだ。
一方、ITベンダーは請負い体質から脱却し、顧客への事業提案ができるよう求められている。それには、最先端のイノベーションの動向を深く動向を理解する必要がある。
最近のシリコンバレーは数千社のベンチャー企業や数百社の新興ベンチャー・キャピタルがひしめく新しいコミュニティーを形成し、様子が様変わりしている。シリコンバレーの活用戦略をもう一度見直す時であろう。
(日経産業新聞 1/17/2017)