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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

フィンテック、はやりを越えて本格展開へ

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今年のキーワードは何と言ってもFintech(フィンテック)だろう。FintechとはFinancial Technologyの略語で、IT技術の急激な進化により変革が起こる金融システムを言う。今までの金融のIT化は、主に金融業務の効率化が中心だった。これからは、ITによるビジネスモデルそのものの変革の時代を迎える。

もちろん、経済活動の根幹をなす金融の仕組みが金融機関ですぐに変化するとは考えにくいが、周辺領域はベンチャー企業がすでに果敢に取り組み始めている。Fintechで先行するアメリカのベンチャー企業の様子を見ると、年頭(2016年1月現在)の時点で1390社ほどのベンチャー企業に総額290億ドル(約3兆5000億円)の資金が投資されている。(6月には2500社以上に増加。)商業関係に200億ドル、IoT関係に100億ドル、AI分野に40億ドルのベンチャー投資額と比較してもその大きさがわかる。

現在は、圧倒的に融資と決済分野のベンチャーが多い。しかし、これからはそれ以外の分野でも増えていくだろう。パーソナル・ファイナンス、株式投資、中小企業用ツール、セキュリティ、クラウドファンディング、消費者間バンキングなどの周辺分野だ。

ソーシャルネットワークやモバイル、クラウドシステムなどの急速な普及により、金融機関の助けを借りなくても自社のサービスの中に決済システムや顧客信用度管理システムが組み込まれるようになっていく。顧客情報の収集と分析が可能になるから、金融機関の事業が顧客の側から切り崩されていくことが考えられる。知らないうちに決済システムや損害保険の大部分が奪われていたといった事態もあり得るのだ。

自分の車を使って空いた時間にリムジンやタクシーサービスの提供を可能にするUberはタクシー業界から猛反対され、今でも訴訟が進行している。それにも拘らず、そのサービスの素晴らしさで世界のタクシー業界をひっくり返す勢いだ。Uberのサービスの仕組みでは、現金は使わず、支払いはスマートフォン経由で自動化されている。また、Uberが自動車保険を自分の車を使うサービス提供者(運転者)に提供するようにもなった。

 一方、Metromileという米国のベンチャー企業は、車の走行距離を自動的に情報収集することにより、毎月の保険料が変動する自動車保険を提供している。顧客の運転パターンをさらに詳細に分析できれば、さらに高度なサービスが実現できるようになるだろう。

 このMetromileとUber が提携した。Uberの運転者は自家用車を使うので、個人と業務上の両方の自動車保険が必要だ。Uberの情報を使えば業務用で使っている時間帯がわかり、それによりMetromileの技術で業務用と自家用の時間帯で違う保険を適用できるようになる。UberとMetromileによる自動車保険提供は、既存の損保業界にとっては死活問題だ。

 Airbnbは、空いた部屋を宿泊者に提供できるサービスをしている。同社では、部屋を提供した人や提供された部屋の評判などの詳細な情報が把握できるようになっている。日本でも中古住宅取引の透明性を上げる動きがある。その背景には、高齢化で増え続ける空き家の利用や中古住宅流通を促進したいという事情がある。Airbnbが顧客情報を元に住宅の仲介や住宅ローンを提供することも不可能ではない。

 このように、顧客を最初に囲い込んだサービス提供者が金融システムを取り込み、既存の金融業の領域を侵食していくだろう。Fintechの黎明期である現在では、周辺の新しいビジネスモデルをまずは注目していく必要がある。金融機関はFintechの動向に俄然注目しだしたが、ベンチャー企業の生態には疎い。知らないうちに新興勢力に後ろから刺される危険もあり得るし、逆にうかつに新興企業に投資や買収をしてやけどをすることも心配だ。

 2016年は、金融機関にとって大きな転換期を迎える最初の一歩となるであろう。

(日経産業新聞 1/5/2016)

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